調査兵団に入ってからというもの、人と話す機会が格段に多くなっていた。まず先輩達。そして班長。三番という成績が、ここのところ仇となってしまっている気がする。
自分はライナーとは違い、あまり話す事が得意ではない。賑やかな場所もどちらかと言えば苦手だった。
新しい人間関係の構築は難しい。
心配してもらえているのはわかる。けれど、どうすればいいのかがわからない。
いつの間にか、ずいぶんと力んでしまっていたようだった。
異様に疲れている。精神的なものもあるのかもしれない。
人気が無い事を確認すると、ベルトルトは一気に脱力した。
ベンチに深く腰掛ける。
顔色が悪い事を指摘され、少し休んできます、とその輪を離れたのはいいものの、それからの行動を決められずにいた。
もう少しだけ、静かに過ごしていたい。
でも、どこで?
あまり長く離れていると、誰かが僕を探しに来てしまうかもしれない。それが嫌な訳ではないのが、また困った所だった。
「はぁー……」
「随分、疲れているようだな」
「!」
いきなり、声が降ってきた。
咄嗟に顔を上げる。ナナシ分隊長が、読めない表情でこちらを見下ろしていた。
「!?」
分隊長が!?
反射的に、ベルトルトは立ち上がった。
いつの間に接近されていたのだろうか。
先程までの疲れが嘘のように、俊敏な動きをしてしまった。あまりの反応にナナシ分隊長が軽く目を見開いている。
「こ…こんにちは!」
「………あぁ」
……どうやら自分は軽くパニックを起こしているようだった。
口から滑り落ちていった極々普通の挨拶に、絶望する。もう少し…何か別の言葉でも良かっただろに。
しばらく、無言で見つめ合う。
続ける言葉を見つけられなかった。これはまずい。何をしているんだ、僕は。早くみんなの元へ戻った方がいいのかもしれない。
ベルトルトがそう思い始めた時に、ぽつり、と。ナナシ分隊長が口を開いた。
「人と話すのは苦手か?」
「え…」
いきなり、何を聞かれたのかと。
思考が停止してしまった。
相変わらず感情の読めない人ではあるけれど、心配して…もらえているのかもしれない。
「無理をする必要はない。俺だって喋らないしな」
「…………」
「とりあえず、座ったらどうだ?」
さっきまで座っていたベンチを、視線で示される。
促されるままに、ベルトルトは腰を下ろした。強制する口調ではなかった。ただ単に、提案されただけ。
僕に興味があるのかないのか、良くわからない。
同じベンチの反対側にナナシ分隊長も座った。二人分ほどの距離がある。
近すぎず、遠すぎず。
丁度いい距離だった。
「リヴァイかハンジが来るまでは、ここは静かだ。暫く休んでいるといい」
「……有り難う、ございます」
あぁ、と答えた後は、もう分隊長が口を開く様子はなかった。
静かだ。話している最中でさえ、静かだった。
息苦しさがない。踏み込まれてこない。
ひどく落ち着けるような…そんな不思議な居心地の良さがあった。
分隊長を相手にして、有り得ない感覚である事は僕自身も分かっているのだけれど。
もう少しだけ、話してみたくなった。
自分からそう思ったのは、何年か前の、エレン以降で初めてかもしれない。
「あの…ナナシ分隊長は、ここで何を?」
「俺も休んでいるだけだ」
「え?」
「サボりじゃない。許可は得ている」
サボり。とても意外な言葉を聞いた気がする。そんな事は思っていなかったのだけど。
苦笑する気配があった。
「自室にいると呼び出される事が多いんだ。……ここは静かでいい」
俺だって喋らないしな。
さっき、確かにそう言っていた。
でもそれなら、今の自分はナナシ分隊長の邪魔をしてしまっているのではないだろうか?
「そんな場所に僕がいたら…邪魔じゃありませんか?」
「邪魔?」
不思議そうに返されてしまった。
違うのなら、良かった。
「…ああ、一人でいる方がいいか?」
「いえ…!そんな!」
「…そうか」
「はい」
「疲れたら…またここに来るといい。俺の側に居れば、サボりだとは思われない筈だ。フーバー」
「えっ!?」
ナナシ分隊長の纏う空気が、和らいだ気がする。
僕の反応を見て、楽しんでいるのかもしれない…なんて事を思ってしまう程には。
普段ナナシ分隊長は、良く知らないけれど。エレンやミカサ達の様子を見ていれば、きっと良い人なのだろうと思う。
それを今日、少しだけではあるけれど、ようやく知れた気がする。
***
べ…ベルトルトです…!
そしてほのぼのです…!!
言い張らせてください…!!!
リクエスト有り難うございました!(*^^*)
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