「ハンジ、待て」


すっと、伸びてきた指先が、私の前髪に触れる。
咄嗟の事に固まっていると、何かを摘まむような気配があった。
すぐに離れて行ったナナシの人差し指と親指の間には、見慣れた繊維が挟まっている。


「……なんだ、これは?」

「ビーンの皮膚をね、ちょっと削いでみてもらったんだよ」

「またビーンか」

「……なに、まさか嫉妬?」


摘まんだまま。
目の高さに掲げて眺めるナナシにそう言ってみれば、僅かにその口角が上がった。
つまらなそうだった視線が、本気か?と告げてきている。

まあね。さすがに巨人相手に嫉妬はないだろうけれど。
言ってみただけだよ。
肩を竦めて、差し出された繊維を受け取る。
一息つこうと眼鏡を上げると、その隙を突くようにナナシの声が滑り込んできた。


「どちらかと言えば…モブリットにはしている」

「…え?」

「嫉妬だ」

「本当に?」

「嘘をつく必要があるか?」


あまりにもさらりと言うものだから、訳もなく疑ってしまった。
確かに、意味はない。
初耳ではあったけれど。
たまにこう、素直になるのは何なのだろうか。
…それなら、私だってたまには言ってみてもいいのかもしれない。


「私が好きなのはナナシだけだよ」

「…そうか」

「今照れたりした?」

「気のせいだ」


じっと見つめ続けると、ナナシが不意にその距離を詰めてきた。
先程と同じように、右手が伸びてくる。
けれど触れたのは前髪ではなく、後頭部。軽い力で引き寄せられて、額に柔らかな感触が当たった。


「ちょっと…、ここはオデコじゃなくて」

「唇に?」


ここで笑うなんて、卑怯すぎる。
何故か負けたような感じだ。なんの勝負かもわからないけれど。
近付いてくるナナシに、私はそっと瞳を閉じた。


***

繊維が残るかどうかは…スルーでお願い致します…!そこまでイチャイチャしてる雰囲気でもないのになんとなく甘くなっていればいいな…と思います。日常のひとコマになっていますでしょうか…

ハンジさん素敵ですよね!私もハンジさん夢を切実に欲しています…!
時井さま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)

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