ベルトルト視点


ぽかんと。立ち止まり、その光景を初めに見つけたのはコニーだった。
たまたま後ろを歩いていた僕とライナー、そしてジャンが足を止める。


「なぁ…あれってよ…」


コニーの視線を追い、そうして同じように呆ける事になってしまった。
教官がいた。それは何も問題はない。
片付けをしていた僕たちよりも、先に教官が帰っていた。ただそれだけの事だ。
問題なのは、その前に立つ二人の姿だった。
訓練生ではない。上官が二人。それも調査兵団の分隊長…だろう。


「…ナナシ分隊長、か?」

「……もう一人はハンジ分隊長だな。羽交い締めにしている理由はわからんが…」

「逆ならありそうなんだけど…」


ハンジ分隊長が、ナナシ分隊長を後ろから羽交い締めにしている。自分より大きな背を、なにやら必死そうに。
ナナシ分隊長がハンジ分隊長を羽交い締め、ならまだわかるような気もするのだけれど。逆だった。

対するキース教官はまだ事態を飲み込めていないのか、不思議そうに二人を見つめている。入団式の時にサシャが芋を食べているのを発見した時の表情に近い。


「やっぱそうだよな?俺だけに見えてる幻覚じゃねーよな?」

「どんな心配だそりゃ。…にしても、ナナシ分隊長なにか持ってねーか?」


ジャンの言葉に注意を向けてみれば、たしかに。なにかは分からないけれど、黒い物体を右手に握り締めている。
そしておもむろに、それがキース教官へと差し出された。
羽交い締めにされているというのに、まるで気にした素振りがない。
なんなのか。
どうなるのか。
固唾を飲んで見守っていると、パサリ、という音が聞こえてきそうなやわらかな動作で。
黒い塊がキース教官の頭に乗せられた。

いや……黒い塊というか、あれは……


「………カツラ?」

「ブッ…!!」

「ぐふ…ッ」

「…っ!!」


コニーの指摘に、堪えきらずにジャンとライナーが吹き出した。僕はなんとか唇を噛みしめて抑える。
黒髪となったアルミン…のような、髪型。ボブカットというものだろうか。よりにもよって、なぜそんな。
とにかく…なんというか…壊滅的な組み合わせだった。

ハンジ分隊長はナナシ分隊長から離れ、額を押さえていた。これを止めようとしていたのだろうか。

キース教官は呆然としたまま自分の頭に乗せられたカツラを手に取っている。
しかし、それを目にした瞬間。
驚いた様子でナナシ分隊長と見つめ合った。

なにかを確認するような視線。
ゆっくりと、ナナシ分隊長が頷く。

教官が怒らない…!?
その二人だけで通じ合ったような空気はなんなのだろうか。全く意味がわからない。
じっとカツラを眺めるキース教官の手を取って、ナナシ分隊長がそれを再び、そっと教官の頭の上に乗せた。

そこが僕たちの限界だった。

声に気付いたキース教官が、ハッとしたようにこちらを見る。
ふわりと広がる髪。
サラサラと流れていく黒色。
正面からその姿を目撃してしまい、不自然に若返った教官の姿に崩れ落ちた僕たちに、キツい罰則が課せられたのは理不尽なような気もしたけれど…仕方なかったのかもしれない。





「…アイツが持っていたものだが」

「ああ。話し合いの相手は憲兵団の筈だが…キース教官の同期という話だったな」

「奪ってきたのか」

「奪ってきたんだろう」

「……せめて酔わせなきゃマシだっただろうにな」

「口を滑らせるとどうなるか。身を持って知るいい機会だったのではないか?……それよりも、ハンジ一人ではナナシの相手は無理だろう。手伝ってやってくれないか、リヴァイ」

「俺は回収係じゃねぇぞ」

「今日はミケがいないんだ。頼んだよ」

「ちッ…面倒な奴だな…」


***

カツラの持ち主はキース教官と同期で因縁ありまくりな憲兵団の嫌な奴。という設定でした。すみませんでした…!!
銀次さま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)

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