「俺の腕前を思い知るがいい」


妙なテンションでそう言い切ったナナシが、調理場へと消えていく。
おい、と声を掛けたが立ち止まる素振りすら見せなかった。
腕前もなにも。嫌な予感しかしない。
取り残されたのは俺とエレンと、エレンの馴染みのガキ二人だ。


「リヴァイ兵長…あの、オレ達はどうすれば…?」

「……待つしかねぇんじゃねーか」


どうするもなにも。
今更止めに行くのも面倒だ。
困惑を全面に押し出したエレンに訊ねられるが、他に答えられる言葉もない。
そもそもの原因は「オレも食べてみたいです」と言ったエレンの一言でもあった。以前、アイツがミケとナナバで作ったとかいう料理。あの話をしたのが間違いだった。
あれはあの二人がいたからこその成功だろう。訓練中、ブレードで携帯食料を刻んでいた姿を見掛けた事があるが、料理が得意そうには見えなかった。アイツが上手いのは刃物の扱いだけだろう。


「エレン、ここで待とう。僕たちが行っても邪魔になるよ」

「ナナシ分隊長の手料理…楽しみ」

「お前ら…」

「エレンは楽しみじゃないの?」

「いや…そりゃ勿論、楽しみに決まってるじゃねーか」

「だよね!」


コイツらは随分と気楽そうだが…
ナナシは案外、大雑把な所が多い。人に出すものまで適当になりはしねえだろうが…不安だ。
ここまで不安な事も滅多にない。


「あの…リヴァイ兵長?大丈夫ですか?」


おずおずと。
金髪のガキに、そう声を掛けられる。確かアルミンとかいう名前だったか。
そこまで顔に出てしまっていたのか。


「…お前ら、覚悟はしておけ」

「はい?何の覚悟ですか?」

「止めに行くなら今だが…まぁ、後悔しない方を選ぶんだな」

「えっ?」


エレンは不思議そうに瞬いているだけだが、どうやらアルミンは理解したらしい。戸惑いながらも、少し表情が固くなったようだ。
女の方は、キリッと目元に力を入れ、俺を見てきた。


「私は…ナナシ分隊長を信じます」

「言っただろう。好きに選べ」

「リヴァイ兵長も、待つんですか?」

「俺が言った所で聞く奴じゃねぇからな…」


そもそも、選べない。
仮に席を外した所で、アイツは追ってくる。そんな確信しかない。

そんなやり取りをしてから、数十分後。
出来たぞ、と俺達を呼びにきたナナシに、ガキ共が瞳を輝かせた。





「おお…!!」

「これは…っ!」

「おいしそう…」


スープ…のようなもの。
それが人数分並べられている。
細かく刻まれた野菜。
横着はしなかったようだ。
具材は芋に人参に玉ねぎと、前回と同じようだったが、出来上がりの色はまるで違っていた。
色どころか…何もかもが違うが。
確かに、旨そうではある。
あるが、何だこれは?
あれを作るつもりじゃなかったのか?

ナナシを見れば、サッと視線を逸らされた。
おい…。


「ナナシさん!いただいてもいいですか?」

「あ、あぁ。食べてくれ」

「いただきます!」


エレンに続き、アルミン、ミカサも手を合わせる。
スプーンを口に運んでから、数秒。
三人の顔が綻んだ。


「すげぇ…!」

「おいしい…!」

「とても、美味しい」


なにやら感動を生んでいる。
試しに一口飲んでみる。
あぁ、これは確かに。


「美味いな」

「ですよね…!さすがナナシさん!」

「あ、あぁ…喜んでもらえたようで、良かった」

「おい、ナナシ。これは…」


また。スッと視線を逸らされた。
ガキ共は気付いていないようだが。
その様子から察するに、あれを作るつもりだったが、まったく別のものが出来上がったらしい。

思い知るがいい、なんて啖呵を切っておきながら、どんな腕前だ。


「ナナシ」

「…………なんだ?」

「また何か、作ってみろ」

「…気が向いたらな」


だが、まぁ。
悪くはない。


***

前回作ったのがカレーとするならば、今回出来上がったのは肉じゃか、というくらいに全く別のものと想像していただければなと…(爆)
だみさま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)

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