今回も何とか生きて帰ってくる事が出来た。
馬上から降りて、やっと肩の力が抜ける。長時間に渡る緊張感から解放されたためか、どっと疲れが押し寄せて来た。
膝を折り、少し休憩する事にする。
少しくらい遅れても平気だろう。きっと。たぶん。
毎回こうだ。
与えられた役割に精一杯で、周りを見ている余裕がない。
班長とそれ以外のメンバーと。数人がかりでやっと、巨人の注意を逸らす事が出きる。討伐補佐の数だけは上がっていくけれど、討伐は未だにゼロのままだった。
無理はしない。
無茶はしない。
一度一度を確実に。
そうしてやっと、生きて帰る事が出きる。
同期にも精鋭と呼ばれる奴はいたが、そんな彼らと自分は違うのだ。
同じ事をしていたら、命がいくつあって足りない。
「あー……もっと強くなれたらな…」
「強くなりたいなら、こんな所でダラけてんじゃねぇ」
「えっ…!?リヴァイ兵長!?」
「さっさと歩け」
ぐい、と腕を引かれる。
え、ええ!?
体は重いままだが、力強い手に引かれて足が勝手に動いていく。ズンズンと歩く後ろ姿は間違いなくリヴァイ兵長だったが、こんなに近くで見た事は無い。
いや、あの、ええ!?
混乱しながらも手は振りほどけない。振りほどける筈がない。
手綱は握ったままだった。俺に引かれるままに、愛馬も大人しく付いて来ている。
周りからは何事かと見られていた。そりゃそうだろう。
「気を抜くな。部屋に戻るまでが壁外調査だ」
「そんな遠足みたいな…」
「ああ?」
「なんでもありません!!」
振り返ってきた兵長にギロリと睨み付けられた。
やばい声に出てた!
先程からどうにも現実味がなさすぎるせいで、実感が沸かない。もしかしたら、これは夢なんじゃないか。そんな気がしてきた。
現実の俺は壁外から帰るなり疲れきってベッドで眠っているのではないだろうか。
「リヴァイ兵長」
「なんだ」
「俺、ナナシっていうんですけど」
「知ってる」
「あ、そうなんですか」
まさか知って貰えていたなんて。
これはやっぱり夢だな。
憧れすぎて、脳みそが勝手に都合のいいリヴァイ兵長を作り上げているんだろう。
それならそれでいい。
いい夢だ。
「俺、少しでも兵長のお役に立てるように、頑張ります」
「ナナシ」
「はい」
「無事に帰って来ただけで充分だ」
「…………え」
「なんだその顔は?」
「いえ!なんでもありません!!」
余程間抜けな顔をしてしまっていたのかもしれない。
慌てて首を振って答えれば、は、と短い声音が聞こえてきた。
まさか…兵長が笑った…?
それを確認する前に、手が離される。いつの間にか結構な距離を歩いていたらしい。兵舎はもう、すぐそこだった。
立ち止まると、バシリと背を叩かれる。
押された勢いで二、三歩前に足が進み、転びかけた。
なんとか踏みとどまって振り返ると、兵長はもう背を向けて歩き出していた。
あ…、そうか。
戻るのか。
きっと、エルヴィン団長のところへ。
わざわざ俺を…送ってくれたのだろうか?
言い知れない感動が、胸に広がる。
こんな、なんでもない俺を、知ってくれていた。
心配…してもらえた。
夢だって構わない。
それだけで俺は、もっと頑張れる気がした。
***
ほのぼの…ほのぼのだと言い張らせてください…!
調査兵団を押し出すあまりに殺伐とした入り方をしてしまいました。
いつもギリギリで頑張ってる夢主を気にかけてくれていたらいいなと思います
まるさま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)
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