近い。
ナナシ分隊長の顔が、目と鼻の先にある。微かに香るアルコールの匂い。
酔っているのだろう。
そうでなければ、こんな…ことには。

座った状態のナナシ分隊長に腕を引かれて、膝立ちのまま引き寄せられた。
腰の後ろに左手を回されている。

いつもは見上げなければならないナナシ分隊長の顔が、今は僅かに下の位置にあった。

近い。とても。
近すぎる。
突き飛ばす…ことは、出来ない。
どうすれば…
どうすれば…!?

固まったままでいると、ナナシ分隊長の右手が髪に触れた。手のひらにすくうように、そのまま口許に運ばれて──口付けられる。

一気に体温が上がった。
真っ赤になってしまっているかもしれない。

とても、綺麗な黒髪だ。
ミカサって髪もすごく綺麗ですよね!

いつか、同期に言われた言葉が頭を巡った。
ち…、ちがう、今は関係がない。
ナナシ分隊長は酔っている。
そう。だから、きっと誰かと間違えて……
誰と?

なんて事を考えている余裕はなかった。
至近距離で、目と目が合う。
アッカーマン。
細められた眼差しで名を呼ばれ、今度こそ思考が真っ白に染まった。
いや、真っ赤に、かもしれない。
心臓が早鐘のように鳴っている。
どうすればいいのかがわからない。

何か言わなければ、と思うのに。
なにも言葉が浮かんでこなかった。
突き放せない、力の入らない自分の両手は、いつの間にかナナシ分隊長のジャケットを弛く握りしめていた。

右手が頬に触れる。
ナナシ分隊長の顔が、ぐっと近付いてきた。そのまま、触れている方とは反対の頬に。
キスをされた。







翌日。
顔を見るなり、アッカーマンに逃げられた。何を言う隙もなく、脱兎という言葉がこれほど似合う事もないという様子で。

なにしたの、という問いに答える余裕もない。
罪悪感。
ズシリとその重みがのし掛かる。

手を出してしまった。
それも酔った勢いで。
いや、酔った勢いではあるが、あれは…
どちらにしろ、許される事ではない。

急いで追いかける。
とにかく謝らなければ。
謝って、言わなければならない事がある。


「アッカーマン…!!」


びくりと、赤い顔で。
どうにか立ち止まってくれたアッカーマンに。
とにかく俺は、全力で土下座をした。


***

抱きついて髪とか頬とかにキスからの翌日土下座という、素晴らしいリクエストをいただきました。
ミカサをあわあわさせるより男主の暴走感が強くなってしまったのですが…!
あかつきさま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)

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