痛みを繰返す



ナナシさんが怪我を。

そうエレンから聞いた瞬間、ザワリと心がざわついた。
怪我。
それなら、生きているはず。
冷えていく思考とは逆に、心臓がやけに激しく鳴りたてている。
いつも感じていた、あの頭の痛みではない。鼓動を刻む心臓が、痛い。


「ミカサ…?」


エレンに名を呼ばれ、はっと我に返る。
そこで初めて、自分が息をとめていた事に気が付いた。


「ナナシ分隊長は、どこに?」

「分からない。けど、ハンジさんが手当てしてくれてる」

「…そう」

「オレたちを、庇ってくれたんだ…それで、怪我を…」


イェーガーには俺がついてる。
そう、言っていた。
確かにエレンは無事だった。
けれど、それであなたが怪我をしてどうするのか。

知らぬ内に握り締めていた手を、ゆっくりと開く。
すべき事は理解していた。


「エレン、無事で良かった。私は今から、ナナシ分隊長を探して様子を見てくる」

「ああ、頼む。オレはここから出られないんだ。リヴァイ兵長もどこかに行っちゃったし」

「わかった。後で…また来る」


そう言って、エレンのいる部屋を後にする。

探さなければ。
会って、言わなければならない事がある。
外はまだ慌ただしく大勢の者が行き来している。無事壁内に帰ったとは言え、作業は山程残されていた。
生きて帰った者と、そうでない者。
まずはその確認から始めなければならない。


「………」


大丈夫。
ナナシ分隊長は生きている。

何度そう言い聞かせても、落ち着きを取り戻してくれない自分の体に舌を打つ。

顔を見なければ安心出来ない。
その気持ちに急かされるように、ミカサはその足を早めた。



「………だ?…て…?」

「……か…、………夫だよ。うん、問題ない」


まだ距離はあったものの、その二人の顔は認識出来ていた。
探していたハンジ分隊長と。
もう一人はリヴァイ兵士長だ。
ここに来ていたのか、と。エレンを置き去りにしていた苛立ちが少し薄れる。


「あれ…?もしかして、ナナシに会いに来てくれたのかな?」

「…はい。少しだけ、お話しさせていただいてもよろしいでしょうか」

「――ハンジ。行くぞ」

「ああ、うん、ちょっとだけ待ってよリヴァイ。ナナシは今眠ってるんだ。私はもう行かなきゃならないから、少しだけ付いていてもらってもいいかな?」

「え、私が…ですか?」

「今の状態のナナシを一人にしておきたくないんだ。頼むよ」

「…わかりました」


肩をポン、と叩かれて、戸惑いながら頷く。
先に行ってしまったリヴァイ兵士長を追い、ハンジ分隊長も行ってしまった。

閉じられた扉に目を向ける。
あの先に、ナナシ分隊長が眠っている。
わけもなく緊張しながら、ミカサは扉に手をかけた。




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