クリスマス小話・後編 常守side

「リョウちゃんイヴに休みってどういう事!?俺なんも聞いてねぇんだけど!」

「落ち着け、縢。だが話は聞かせて貰おう。此木、その……お前もそういう相手が出来たのなら、知らせてくれれば少しくらいは融通がきくように、俺も普段から日程の調整を──」

「おい、此木。吐いちまえ」

「……まぁ、こうなっちまったからには全部喋った方が楽になると思うぞ、リョウ」

「此木監視官、諦めも肝心ではないかと」


出勤するなり一係の面々に取り囲まれた此木さんは、その勢いに呆気に取られたように立ち止まっていた。
何事だ、とその瞳が告げている。
慌ててそちらへと駆け寄り、頭を下げた。情報を漏らしたのは私だ。


「ごめんなさい!此木さん……!どうしても気になってしまって……!」


昨日三人がフリーズした後、確保した対象を先に運んでいた宜野座さんと六合塚さんとも合流し、情報を共有した。そして、問いただすという結論に達したのだ。
「遅いぞ、常守監視官。君まで一緒になにをはしゃいで……」と初めは聞く耳を持たなかった宜野座さんも、此木さんがわざわざ24日に休みを申請したと知ると、暫しの沈黙を挟み、「何だと……?」と話へと加わる姿勢を見せたのだ。
六合塚さんの眼差しは既に狩人のそれへと変化していた。「聞きましょう」と。
生憎、昨日は此木さんは非番であった為、今日決行される事になったのだった。
一係は、いまだかつてない程の一体感に包まれていた。


「何の話だ……?いや、確かに休みは取ったが……縢の分も一緒に」

「…………えっ?」


困惑を拭いきれていない様子で、それでも答えは返ってきた。
斜め上の方向で。

……縢君の分?
想定外のその言葉に、混乱したのは私だけではなかったようだ。
皆の視線が、一斉に此木さんから縢君へと移動する。


「俺???」


駄目だ。
訳がわからない、とでも言うように目を丸くしている。
その様子を見てとって此木さんが首を傾けた。


「去年、一度でいいからゆっくりイルミネーションを見てみたい、と言っていなかったか?」

「…………え、なに?それって俺とリョウちゃんで見に行くってこと?」

「その予定だった」

「聞いてねぇ!!いや、違うそうじゃなくて、そこじゃなくて!え……、俺と?」

「あぁ」

「男二人で?」

「男二人で」


まさか、と。否定を期待するような縢君の問いかけに、此木さんはただ、淡々と頷き続けている。
そう言えば。確かに昨日も、縢くんはそんな事を言っていたように思う。
此木さんはそれを覚えていて……実行したのだろうか。執行官は一人では外出出来ないから……わざわざ、休みを取って?


「あぁ、そう言えば……すまない常守。まさか新人の監視官が来るとは思わず、先に申請をしてしまっていた」

「い、いえ、それは大丈夫なんですけど」


やはり、相当前から計画は立ててあったらしい。
宜野座さんの希望はいいのだろうか……と思わなくもなかったが、問題はそこじゃない。


「希望があるなら、来年は六合塚と行こうと思う」

「えっ」


いきなり名前を出された六合塚さんが、戸惑った声を上げていた。
仕方がないと私でも思う。
24日に二人で出掛けるとなれば、それはもうデートと呼ばれるものだ。呼ばれる……ものなのだけど。縢君とも二人で行く所から考えても、此木さんは全く気にしていないのかもしれない。
彼女が出来たらどうするのだろうか……?
どこか遠くで宜野座さんの嘆息が聞こえた気がした。


「俺は無しなのか?」

「狡噛は宜野座とでも行けばいいんじゃないか」

「なんでそこだけ冷たいんだ」

「俺を巻き込むな、此木。こいつと二人で行くくらいなら、一係全員で行った方がまだましだ」

「……それもいいな。やってみるか。二係に押し付ける感じで」

「いいですね!それ!いえ、押し付けるのは問題がありますが……」


話の流れに、思わずグッと拳を握ってしまった。
仕事を抜きでみんなで出掛ける機会など、それこそ皆無。有り得ない事だった。
それがまさか、宜野座さんから提案されるなんて!


「おいおい、そんな無茶な……お前さんたち疲れてるのか……?」

「マシだと言っただけで誰が実行すると言った!?」


征陸さんの心底から心配するような声音に、宜野座さんが反発している。
けれど、今更撤回はさせられない。
此木さんと顔を見合わせ、頷き合う。
来年は絶対に、全員で出掛けよう!


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