飼育の作法 護送車side
薄暗い車内で、目的地への到着を待つ。
八王子のドローン工場。事故か事件かはまだ判明していないが、その工場での死傷者はこの一年間ですでに三人目。
バラバラ死体、とは穏やかじゃない。
乗車前に確認した情報を思い返していると、隣に座っていた縢がトントン、と軽く肩を叩いてきた。
「なんだ?」
「いや……俺じゃなくて、征陸のとっつぁんが何か言いたい事があるみたいよ?」
顔を上げて問い掛けると、そんな答えが返ってきた。
征陸さん?
縢に促されるままに、視線を正面へと向ける。すると、真向かいに座っていた征陸さんが、何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「リョウ……お前さん、どうしてまたこっちに乗ってるんだ?」
目が合うと、征陸さんは眉尻を下げてそう訊ねてきた。
こっちとは、護送車の事だろう。どうにも最近聞いた覚えのある問い掛けだった。具体的には、1週間程前に。
ただ、今日は寝坊した訳ではない。あの狭い車内に監視官三人が詰め込まれるより、こちらの方が広く、居心地が良い。
それに、俺が居るよりあの二人だけの方が、会話もしやすくなるだろう。宜野座と早く打ち解けるには、会話を重ねていくに限る。
まぁ、噛み合わずに決裂することも多々あるのだが。
どこから説明したものか。一瞬だけ考え、早々に諦める。
「……諸事情です」
「いやいやいや、諸事情って言ってもなぁ……」
「邪魔ですか?」
「そう言う訳じゃないんだが……」
ガシガシ、と頭をかいて、征陸さんは周りを窺う。
狡噛、六合塚、縢、と。我関せずといった様子で静観していた他の執行官を順に眺め、(縢だけは楽しそうに俺達を観察していた)援護を期待するように声をかけた。
「お前達も、どうして何も言わない?」
「……此木監視官、今日は寝過ごした訳ではないんでしょう?」
「あぁ」
「それなら、いいんじゃないですか?煩くもないですし、私は別に構いません」
「俺はリョウちゃんなら大歓迎ー」
「……とっつぁん、此木には何を言っても無駄だぞ。ギノももう諦めている」
まさかの六合塚の発言から始まり、縢、狡噛の追撃。
征陸さんは額を押さえて俯いてしまった。
そんな残念そうな顔をしなくても。これでも宜野座の同僚ですよ、俺。
俺がそんな扱いを受けていたと言うのに、護送車を降りた先で当の宜野座はというと、常守へと皮肉じみた言葉を口にしていた。
「君が愚か者でない事を祈ろう」と。
いくらなんでも、新人の、それも年下の女性相手にそれはない。もっと他に言い様はあるだろうに。
二人にしたのは失敗だったか。
嘆息しかけ、常守の表情を見て思い直す。
むっ、と。分かりやすく、幼い表情を浮かべた常守は、負けるつもりはないようだった。
心が折れた様子はない。
ナイスガッツだ、常守。俺は応援するぞ。
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