お正月企画 | ナノ


▼ 分隊長主でほの甘なペトラ夢

髪を手櫛で整え、スカートの皺を伸ばし。そわそわと落ち着きのない様子で辺りを窺っていたペトラが、パッと表情を輝かせる。


「あ、ナナシ分隊長──」


そうして現れた待ち人に手を振ろうとして、しかし呼び掛けは途中で声量を失ってしまった。
人違いだった訳ではない。
ペトラの前に歩を進めたのは間違いなくナナシ分隊長だった。
珍しく私服姿ではあるが、これがデートである事を考えれば不思議な事でもない。


「すまない。待たせたか?」

「いえ、それは大丈夫なんですが…………な、なにか、怒ってますか……?」


怒っている。そう問われたナナシ分隊長は、いつもの無表情ではなかった。
けれど、怒りを浮かべている訳でもない。どちらかと言えば、笑んでさえいるような穏やかな雰囲気を纏っている。


「いや」


困惑を乗せて上目で問うペトラに、ナナシ分隊長は否定を口にした。
やはりそうだろう。もう一度言っておくが、これはデートだ。待ち合わせで出会って早々怒り出す理由など──
そう結論付けようとした瞬間、続きの言葉が滑り込んできた。


「ここに来る途中、ある男性に呼び留められたんだが……」


話し始めたナナシ分隊長はそこで一度言葉を止め、ペトラの目を見つめた。真っ直ぐに。
ペトラの頬が赤く染まるが、次の瞬間に、その表情は崩れ去る事となった。


「リヴァイに全てを捧げるつもり……、だとか?」

「!?」


ひどく、静かに。
落ち着いた声音が、そんな言葉を口にする。
ペトラが衝撃に固まっていた。
ピシリ。
そんな音でも聞こえてきそうな程の硬直だ。


「リヴァイ兵長によろしく伝えてくれと、伝言を言付かってきたよ」



***


「!!?」


そんなペトラと一緒に、俺達も固まっていた。
二人のデートを見守るはずが、とんでもない修羅場に出くわしてしまったんじゃないか?そんな不安が一瞬にして脳裏を過る。
居心地悪そうに二人を窺っていたエレンも、動きを止めていた。とても気まずそうだ。ガキに見せるにはこれはマズい展開かもしれん。兵長に口を滑らせたら二次災害だ。
神妙に考察しだしたのはエルドとグンダだった。


「これは……あれじゃないか……?ナナシ分隊長とこうなる前に、実家に手紙を出していた、とか……」

「あり得るな……。リヴァイ兵長直々に選ばれて、舞い上がっていてもおかしくはない」

「言っておくが、俺は冷静だった。選ばれると初めから確信していたからな」

「オルオ、お前ペトラと一緒になってはしゃいでいなかったか?」


エルドの奴は一体何を言っているのか。
何の事だか、俺にはわからねぇな。
そんな事より、よりによってナナシ分隊長に伝言を………


***


「あの、それは!ナナシさんとお付き合いする前に父に出していた手紙で……!」


視線を二人の方へと戻すと、衝撃から立ち直ったペトラがナナシ分隊長の腕を掴んでいた。
さすがだ、ペトラ……!
よく回復した!


「そうか……どちらにしろ、リヴァイに渡すつもりは無いが」

「!!」

「今から挨拶にでも行こうか」

「!!?」


微笑む分隊長に、ペトラはこれ以上ない、という程に目を見開いているようだった。
言葉もなく、ただただ赤く染まっている。
初めてのデートで、プロポーズ。
さすがはナナシ分隊長だ。

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