お正月企画 | ナノ


▼ 分隊長主とミカサの切甘


たとえば。
巨人を全て殲滅したのだとして、その先の未来にあの人は存在するのだろうか。
想像しようとすればする程に、その姿はまるで思い描けなくなっていく。


…………居ない気がする。
とても、不安だ。


人類最強のあの人物なら、殺しても死にそうにはないと言うのに。
どうしてこうも違うのだろうか。

立体機動の技術も、強さも、良く知っている。
あの二人の実力に、そう差は無い事も。
だと言うのに、思い浮かぶ姿はいつも、真逆のものばかりだった。

手を取れない。
隣には立てない。
どれだけ叫ぼうと、ナナシ分隊長は行ってしまう。
私では止められない。
救えない。

そうして訪れる喪失に、涙すら浮かべられずに、ただ呆然と立ち尽くすのだ。







「………………」


嫌な夢を見るのは、決まって壁外調査の前日だった。
頭が痛む事はない。
ただ、どうしようもない不安が、胸の中を渦巻いている。
居ても立ってもいられなくなるような。

以前にも、似たような感情に支配されてしまった事があった。
『なにお前の勝手な都合を押し付けてんだ』と。
エレンには怒られた。

ナナシ分隊長なら……頭突きはしないだろう。……多分。いや、絶対。

困ったように、けれど、厳しく。
いっそ冷たくすら感じられるような声音で、落ち着け、と言われる気がする。

落ち着いて……冷静に、見捨てなければならないのだろうか。
それとも、見捨てられるのだろうか。

どうしようもない犠牲だったのだと、諦めて。
あの日、私たちがそうする事しか出来なかった時のように。


「ナナシ分隊長」


気付けば、その名を呼んでいた。
何を言っていいのか分からないままに、その姿を求めて視線はずっと分隊長を追っていた。
今を逃せば、もう話せない。


「どうした?」

「………………」

「顔色が悪いな」


呼び掛けたまま何も言えないでいる私に、ナナシ分隊長の声音が心配そうなものへと変わる。
伸ばされた右手が、前髪をかき分けて額に触れた。
あたたかい。
触れ合った体温に、少しだけ不安が薄れていく。


「熱はないか……」


その手が離れてしまう前に、冷たくなってしまっていた自分の右手を、咄嗟に上へと重ねていた。
額を押し付けるように握り込み、瞼を閉じる。


「ミカサ?」

「……ナナシ分隊長」

「なんだ?」

「………………ナナシさん」

「あぁ」


呼べば、必ず応えてくれる。
それだけの事で、こんなにも。
じわりじわりと戻る熱に、息を詰める。
無くしたくない。
今度こそ。


「………………………………アルミンは、こっちを見てますか?」

「…………あぁ。心配そうにしているな」


首を巡らせたのだろう。僅かな沈黙の後にそう答えがあった。
やっぱり、アルミンには気付かれてしまっていたようだった。
昔から、動揺を上手く隠せない。

重ねたままの右手。
まだ離したくはないけれど。
少し、恥ずかしくなってきてしまった。
離すと同時に、目を開ける。

いきなり、意味のわからない行動を取ってしまった。ナナシ分隊長はどんな顔をしているのだろうか。

しかし、その表情を見上げる前に、いつの間にか背中に回されていた腕に、ぐいと引き寄せられていた。
予測していない力に簡単に上体は傾ぎ、バスっと。間の抜けた音を立ててナナシ分隊長の体に埋まる。

これは、
誰が、
どう見ても、抱擁だ。

突然の事に硬直していると、触れ合ったまま、至近距離で声が聞こえた。


「俺も心配している」


そのまま、何も答えられないでいる内に優しく頭を撫でられ、体が離される。


「……………………」

「もう大丈夫か?」

「は、はい」

「そうか」

「す……みません、でした、いきなり」

「いや、いい。不安なら、俺の体くらいはいつでも貸そう」


カッ、と顔が一気に熱くなるのが、自分でも分かった。

見透かされてしまっている。
その上で、こんなにも、甘やかされて……
何をしているのだろうか、私は。

そこまで考えるので精一杯だった。
大きく頭を下げて、回れ右。
目を丸くしているアルミンに、行こう、と告げる。
他に何と言えばいいのか、私にはもうわからなかった。



***

切ない、という言葉の意味や方向性を大きく間違えてしまっておりましたら申し訳ございません……!
透さま、リクエスト有難うございました!!

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