お正月企画 | ナノ


▼ 分隊長主とハンジでほのぼの休日話


ナナシと二人で街を歩く。
立体機動のベルトを締め付けた普段の兵団服とは違い、私服での外出はなかなかに新鮮な気分を吹き込んではくれるものの、眠気には勝てない。徹夜明けに起こされ、出るぞ、と一言。
ふらふらと着替えを済ませ、なんとか顔だけは洗ってみたものの眠気は変わらずに押し寄せてくる。

欠伸を噛み殺すハンジを気にもとめずに、しかし歩調だけはいつもより緩めてナナシは隣を歩いている。

どこへ行くつもりなのか。
横顔はいつもと変わらずの無表情。まだ覚醒しきらない頭では、そこからナナシの考えを読み取る事はできない。
まぁ、ナナシが用件もなく外へ出掛けるなんて事はないから、エルヴィンからの使いか頼みでも引き受けたのだろう。
事前の説明もなく連れ出された意味はわからないけれど。

今日は一日眠るつもりだったのに……愚痴くらいはぶつけてもいいだろうか。
口を開きかけたハンジよりも先に、ナナシの声が滑り込んでくる。


「どこか行きたい場所はあるか?」

「……………………え?」

「食べたいものがあるなら、先にそちらでもいい。朝食がまだだろう……と言っても、もう昼だが」

「え、いや、ご飯ならナナシの好きなものでいいよ」

「そうか」

「…………」

「…………」


互いに無言になり、歩くこと数歩。
ナナシの言葉を反芻したハンジが、その足を止めた。
眼鏡を押し上げ、ゆっくりと目元を揉みほぐす。
ぼやける視界に、振り返ったナナシの姿が映った。


「ナナシ、一つ聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「街に出た用事はなんだい?エルヴィンに何か頼まれたんじゃ……」

「いや。何も。特に用事もない」

「無いの!?」


その返答に、ハンジの眠気が束の間吹き飛んだ。潔すぎる返答だった。
それじゃあ一体何の為に、と目を見開くハンジに対し、ナナシはどこか困ったように口を開く。


「ハンジ分隊長が部屋に籠って何日も出てこない、という相談があった」

「えっ」

「研究熱心なのもいいが、日の光くらいは浴びておけ。体内時計だけでも正常に戻した方がいい」

「まさか、その為に今日……?」

「ギトギトした同僚なんて嫌だろう」

「ギ、ギトギトまではしてないだろ!?え……!?もしかして、してる……!?私が気付いてないだけ!?」

「風呂は帰ってからだな」


ふっ、と。軽く笑ったナナシが、止めていた歩みを再開させる。
わざわざ、休日に。連れ出してくれた同僚の背を、ハンジは慌てて追い掛ける。


「……冗談だ。朝早く目が覚めて、特にする事もなかったからお前を起こしただけだよ」

「つまりは私とデートがしたかったと」

「…………そういう意味になるのか?」

「どっちでも嬉しいよ」


腑に落ちないとでもいった様子で首を傾けるナナシに、そう言って笑いかける。
どっちだろうと、私の事を考えてくれてたのには違いがない。
ぶつけるつもりだった愚痴は、最早どこにも残されてはいなかった。



***



その辺の公園で(屈強な)膝枕とかで昼寝すればいいんじゃないかなぁと思いました
ほのぼの……だと言い張らせていただきたいです!梁紅玉さま、リクエスト有難うございました!!(*^^*)















以下、ほのぼのにならなかった別ルートです



「いや。何も。特に用事もない」

「無いの!?」


その返答に、ハンジの眠気が束の間吹き飛んだ。潔すぎる返答だった。


「それなら、私の安眠を妨害した理由は!?」

「エレンの睡眠をお前が妨害したから、というのはどうだ?」

「えっ」

「昨夜、また巻き込んだんだろう」


ギクリ、と跳ねかけた体を押さえつける。そんなハンジの反応に、ナナシは無言で目を細めた。
ハンジの背に冷たい汗が伝う。


「あ、朝まで付き合わせたわけじゃないよ!?少し話が弾んだだけで、後は自分の部屋に戻って研究をしていたし──」

「………………」

「ほ、ほんの少し……!そう、少し日付を越えたくらいで……!そ、それにエレンも今日は休みだって言って……」

「エレンは今日、朝食の当番だったんだ」

「………………」

「話を聞いて、俺が代わった」

「………………」

「もう一人の当番であるリヴァイと二人で朝食を作ったんだが、なかなか味わった事のない食事時間だったな」


兵士長であるリヴァイと、分隊長であるナナシが二人で作った朝食。
それを食べる部下達の姿。
味がどうであれ、下手なことは口に出来ない。下手でない事も口には出来ないだろう。
というより、何を作ったのかも気になる所ではあった。

謎の緊迫感を生み出している光景が、易々と想像出来てしまう。


「その足で部屋を覗いたら、気持ち良さそうに眠っているお前が居たんだ」


起こしたくもなるだろう?と。
珍しく。本当に珍しく、ナナシが笑みを浮かべていた。


バットエンド

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