お正月企画 | ナノ


▼ 分隊長主で104期生を庇って大怪我(104期生視点)」「104期生を庇って大怪我したのを聞いたリヴァイorエルヴィン」

アルミン視点→エルヴィン視点

人が挑むにはあまりに巨大な生物。
どれだけ覚悟していようとも、間近で相対するそれはいとも簡単に僕達から思考と冷静さを奪っていく。

アンカーを射出する。
ガスを蒸かし、ワイヤーを巻き取っての移動。
何度も何度も訓練で繰り返したその動作が、けれども今は進むべき方向を見付ける事すら難しい。

囲まれた、そう気付いた時には既にエレンが駆け出していた。
固まるには危険すぎ、踏み出すには勇気がいる。エレンのすぐ後ろを、既にミカサが追っている。
死に急ぎ野郎が、と吐き出したジャンの声音は咎めるものではない。その声に背中を押されるように、僕達も後に続いていく。

進んで、どうにか本隊と合流するしかない。
距離はそう離れてはいない筈だ。
目まぐるしく変わる景色に、必死に目を凝らす。打ち上げた信号弾に、応える色は未だ見付けられない。


「右から来たぞ!!」

「くそッ」


迫り来る巨大な足音。
横手から現れた10メートル級の巨人に、舌を打ったジャンが空中で体を捻る。アンカーを撃ち出しての急激な方向転換。
空を切った巨人の手が、建物を破壊する。轟音。衝撃。


「ジャン!?」

「無事だ!」


コニーの呼び掛けに短い返答。
バランスを崩した巨人の項を、追い付いたサシャがブレードで削ぎ落とした。
蒸気を上げながら巨体が沈む。
勢い余って転倒しかけたサシャの右手を咄嗟に掴み、屋根の上へと押し上げた。


「た、たすかりました」

「うん……間に合って良かった……」

「サシャ、大丈夫!?」

「討伐数1だな」


握った右手が震えていた。僕のものか、サシャのものか。それすら分からないままに、荒く呼吸を繰り返す。
早鐘を打つ心臓が、酸素を欲していた。
止まってしまった僕らの傍の屋根上に、ユミルやクリスタも降り立ってくる。


「アルミン、何か考えはあるのか?」

「いいや……今はどうにかして、ここを突破するしかないよ……!」


先行したエレンとミカサが数を減らしてくれている。確実に、巨人の数は減っている。無限に集まってきている訳でもない。
けれど、このままじゃあの二人のガスも刃も持たない……
どうすれば……!


「おい、お前ら……どうやら助かったみたいだぞ」


場違いな程に、安堵を含んだユミルの声に、視線を上げる。
不安そうに瞳を揺らすクリスタの、さらにその先。
巨人の蒸気とは違う色。
待ち望んだ煙弾が、すぐ側で上がっている。
その方角から次々に、群がる巨人が倒されていくのが見えた。自由の翼を纏った人影が、駆け抜けるのも。

ナナシ分隊長がいる。
真っ直ぐにこちらへ向かってくるナナシ分隊長を補佐する、部下らしき幾人の姿も見える。


「…………ぁあ……?」


けれど、そんな姿を見付けたと同時に、有り得ない光景までもが目に入ってきた。


「なんですか、アレ……」


震える声を発したのはサシャだった。
何かが、空から飛んできている。
大きな破片。
家の、一部のようなもの。
細く、長く、空気を切り裂く音を立てて、無惨に引きちぎられたようなソレが、僕たちに向かって物凄い速度で迫ってきている。


「避けろ!!!」


滅多に聞く事のない、切迫したナナシ分隊長の叫び声。

唖然とする暇もない。
スローモーションのように流れていく光景の中で、ナナシ分隊長が僕達を庇うように飛び込んでくる姿が見えた。



***


「そうか…………分かった。お前達は元の配置へ戻っておいてくれ」

「は!」


青い顔で報告に来たナナシの部下を下がらせる。
104期生を庇って負傷。
本人が現れなかった時点で、嫌な予感はしていたのだ。ナナシ分隊長が、と話し始めた時の表情が、その予感を決定付けてもいた。

新種の巨人か、それとも奇行種か。
確認は取れていないが、普通の巨人にナナシがやられるとも考えられない。

104期生を庇っての、負傷。

飛来した瓦礫自体は避けられたものの、屋根へと衝突した衝撃で弾け飛んだ破片が、背から腹部へと突き刺さったらしい。
そしてそのまま、下で待ち受けていた巨人と戦闘になったようだ。

出血が酷く、今現在意識はない。
それでも幸い命にだけは別状はないらしいが、どう捉えても重傷と言えた。


「エルヴィン、ナナシが負傷したと聞いたが」

「もう耳に入ったのか」

「命はあるんだろうな?」


入れ替わるように、リヴァイがやって来た。もう情報が伝わっていたらしい。
確認する口調ではあったが、その内容は断定している。そう信じているだけなのか、信じたいからこその断定なのか。
ただの負傷であれ、出血が続けば命を落とす。感染症への対策も十分とは言えない。
だが、ナナシは生きている。


「命に問題はない。今の所はな。当分は動けないだろうが……ナナシの回復力に期待しよう」

「そこまで重傷なのか」

「意識がない。出血も酷い。だが、刺さった木材が内臓を痛めていないのが幸いだった」

「…………」


それで本当に無事なんだろうな?と。
声にこそ出していないものの、そう言いたげな表情でこちらを見返すリヴァイに、今しがた作成したばかりの書類を差し出す。

104期生を取り囲んでいた巨人は掃討されたが、例の瓦礫を投げ付けたという巨人はすぐに姿を消したらしい。
新たな敵だ。


「ナナシが無事でないのなら、私ももう少し取り乱しているよ」

「はっ……。見舞いは後だな……まずはガキ共に話を聞く」

「あぁ。頼んだ、リヴァイ」


素早く書類に目を通したリヴァイが、踵を返して立ち去っていく。
暫くの間その背を見送り、息を吐き出す。リヴァイの口から見舞い、という言葉が出てきた事に対する驚きは上手く隠せたようだった。
後でナナシがそれを聞いても、大いに驚く事だろう。


***

ジャンを活躍させすぎて出番を削ったりしていました……(笑)
wisさま、リクエスト有難うございました!

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