▼ 少し違った分隊長主ver.
乾杯!!
と、そう叫んだのはハンジだった。何故かエルヴィンを差し置いての彼女の音頭に、近くに座る者同士がそれぞれグラスをぶつけ合う。
小気味いい音に続いて、賑わいが直ぐに広がっていく。新年を祝う宴だ。普段は滅多に飲めない酒も、今日ばかりは大量に用意されていた。
適当にグラスを合わせた後に、俺もそれを飲もうとして──リヴァイに止められた。
「お前は飲むな」
「……この状況で、それはないだろう」
しっかりと、腕を抑えられている。
力を込めても、それは動こうとしない。それほどまでにか。
俺達の様子に気付いた数人がハラハラと成り行きを見守っているようだが、口を挟んでくる者はいなかった。
ミケにも目を逸らされた。関わらない方が良いと判断したらしい。味方でないのならそれでも構わないが……後で何か言ってやりたい。
「茶でも飲んでおけ。特別に紅茶をやってもいい」
「この状況で、それはないだろう」
もう一度、繰り返す。
毎回毎回、悪酔いする訳ではない。それは知っている筈だが……リヴァイに引く気はないようだ。
諦めて、嘆息する。
「分かった。料理だけ楽しむ。それでいいだろう?」
「あぁ。紅茶の場所だが……」
「いや、それはいい」
「……酒なら後で付き合ってやる」
それが妥協点らしい。手を離し、そのまま視線も離される。
後で、と言う事ならエルヴィンやミケも誘っておこうか。ハンジ……はやめておこうか。なんとなく。
話が付いた事で、周囲も安心したらしい。リヴァイ兵長、と呼び掛ける声がした。あれはリヴァイが選んだという班員だろうか。緊張した様子ながらも、やる気と興奮を滲ませた面持ちが四人分。席を立ったリヴァイが、グラスを手にそちらへ向かっている。
彼らの近くにはナナバも座っていた。ラッパ飲みをしかけたゲルガーをリーネと共に止めている。
みな表情は明るい。
楽しそうな笑い声。
何を話しているのか、時折、ドッと沸くような歓声も上がっている。
「ナナシ」
ぼんやりと眺めていると、エルヴィンに名を呼ばれた。
いつの間にこちらへ来ていたのか。先程まで団長、と幾人もの部下に囲まれていたと思ったのだが。
「少し外へ出ないか?」
「あぁ……酔ったのか?」
「いや、ナナシと話がしたくなってね」
そう言ってエルヴィンが穏やかに笑う。
口調も足取りもしっかりとはしているが、普段より僅かに頬の色が上気している。少なからずアルコールが回っているのだろう。
団長と言えば主役だ。飲まないわけにはいかない。俺は止められてしまったが、このようかに気を緩めているエルヴィンの姿が見られるのなら、宴会も悪くはない。
「構わないだろう?」
断る理由は何もない。頷いて、立ち上がる。
喧騒が遠くに聞こえる。
見知った顔、見知らぬ顔。それぞれが悲壮さの欠片もない、ただ楽しげな笑みを浮かべて騒いでいる。
今後どれだけの者が生き残れるのだろうか……そんな考えを、悟られてしまっただろうか。
「一つ言い忘れていたかな。あけましておめでとう」
「……エルヴィン」
「なんだ?」
「今年もよろしく頼む」
「あぁ、こちらこそ」
口元が緩く弧を描く。それだけで十分だった。無駄な心配は掛けられない。首を振り、エルヴィンの後を追う。
主役を連れ出してしまうが、少しくらいは許されるだろう。
***
少しだけ変えるつもりが全くの別物になってしまいました。ネガティブルー主……といいますか、季節感丸無視になってしまっておりまして申し訳ござぃせん!