▼ 緊張しているエレンを分隊長主がリラックスさせ一緒に木陰で昼寝→リヴァイ班が見つけてもごもご
固くなっている。
一目見て分かるほどに、肩に力が入っている。
可哀想な程に緊張している子供の姿を見つけ、ナナシはそちらへ歩み寄っていった。
「エレン」
呼び掛ければ、ビクリとその肩が跳ねた。
まるで、審議所直後のリヴァイに対する反応のようだ。今でこそ信頼や尊敬といった感情を勝ち取っているようだが、あの頃は「躾」の効果が出すぎてしまっていた。感情よりも先に体が反応していたのだろう。
無理もない。痛みは根深く心に残る。もう少し早く止めてやるべきだった。過去の自分の行動に罪悪感が僅かに過る。
「ナナシ分隊長……」
「今から緊張していては、体が持たないぞ」
「はい、わかってはいるんですが……」
そんな状態に陥ってしまっている原因ははっきりと分かっていた。
明日、実験が行われる。
俺たちだけではなく、ザックレー総統やピクシス司令、ナイル師団長も訪れる手筈となっていた。
審議所にいた、主だった人物が全員集まるのだ。
成果によって再び処刑の審議をされるような事はないだろうが、万が一暴走してしまえばどうなるかは分からない。俺やリヴァイが拘束して終わり、というだけにはいかないだろう。
「総統はともかく、司令は面白い方だ」
「ピクシス司令には以前酒をいただきました」
「……飲んだのか?」
「いえ、あの……すぐに吹いてしまって」
「強いからな、あれは……」
何をしているのだろうか、あの人は。
以前、というのはトロスト奪還の時だろう。緊張を解すには荒い手段だった。
少なくとも、15才の少年に飲ませるものではない。
ざわり、と大きく木々が揺れる。
吹き抜けた風に、幾つかの葉が枝から離れて舞い上がった。
それを視線で追ったエレンが、射し込んだ陽光に眩しげに目を細める。
「……寝てないんじゃないか?」
「わかりますか?」
「休める時に休むといい」
「…………」
「俺が見ている。地下へ戻る必要はない」
えっ、と。エレンの口から、驚いたような呟きが漏れる。
寝るときは地下に。エレンの身柄を調査兵団が受け取った際に、決められた内容だ。だが、それも夜だけで十分だろう。
「俺も昨日は徹夜だったんだ」
「いや、でも一緒に寝てしまっては監視にならないんじゃ」
「潰されるよりは前に起きるさ」
戸惑う様子のエレンを促し、木陰に腰かける。
訓練は休み。リヴァイもハンジも今日はいない。絶好の昼寝日和だろう。
「不安なら、俺は起きているが」
「そんな……大丈夫です……!」
「そうか」
「……すみません。有難うございます、ナナシさん」
エレンも上手く肩の力が抜けたようだった。この分だと明日も大丈夫だろう。あとは体調面を整えるだけだ。
木の幹に背を預けて、目蓋を下ろす。
いい気候だった。
静かで、穏やか。
悪くない空気だ。
***
「偵察の結果、ナナシ分隊長とエレンが寝ていたわけなんだが」
真面目な表情を作り、エルドが顔の前で両手を組む。肘はテーブルの上。難しい問題に直面した時の彼のスタイルだった。
「ナナシ分隊長がなぜあのクソガキと」
ティーカップを握る手に力を込めたのはオルオだ。震えが伝わったのか、中の琥珀色の液体がゆらゆらと揺れている。
「混ざろう」
そして、即決したのはグンダだった。迷いがない。真剣そのものの口調である。
「でも、私たちが近付いたら起こしてしまうんじゃない?」
「ナナシ分隊長には間違いなく気付かれるだろうな」
「くそ!遠くから見ているしかないってのか!」
エルドの冷静な分析に、グンダが強くテーブルを叩く。心底羨ましげだ。
ナナシ分隊長も、エレンも。二人とも、無防備な姿を見せることは滅多にない。
特にナナシ分隊長は、だろうか。信用されていない訳ではないのだろうけれど、まだ一歩、踏み込めてはいない感覚があった。
「……ただ見てるんじゃねぇ。見守ってやってるんだ……あのヒヨッ子をな。それが俺達の役割だ。お前らにはわからないかもしれねぇがな、俺だけはその域に達している」
「さっき『なぜあのクソガキと』って悔しそうに言ってなかったか?オルオ」
「あと兵長のマネはやめて。リヴァイ兵長はそんな事言わない」
「だが、本当にエレンはすごいよな。ナナシ分隊長とすぐに打ち解けて……俺らじゃ無理だった」
「前にも言った気がするけど、エレンがおかしいのよ。私たちはゆっくり距離を縮めていきましょう」
エルドとグンダ。二人と視線を交わし合い、頷き合う。
私たちは私たちのスピードで。少しずつ。
そうしていつか、リヴァイ兵長も一緒に居眠りが出来る日が来たのなら、それはとても素敵な、平和な一日になるのだろう。
***
司令の事で話を弾ませすぎて昼寝をしてくれそうになかったので大分カットしてしまいました(笑)
シロクさま、リクエスト有難うございました!!