▼ 朝起きたら分隊長主が手乗りサイズになっていて、調査兵団や104期生に愛でられる話
リヴァイ視点
「リ、リリリヴァイ兵長っ!!!」
「……………どうした」
あまりにも吃り過ぎた呼び掛けに、リヴァイは清掃の手を止める。
壁外調査でさえ、このような呼ばれ方をされた事はない。何事だ。
埃を立てるんじゃねぇ。そんな言葉を飲み込む程には、扉を開き現れたエレンは、動揺を露に顔に出していた。
必死の形相と言える。
ここまで駆けてきたのだろう。荒い呼吸に肩を上下させていた。
「大変です!ナナシさんが……っ!!」
ナナシ。
叫ばれたのは、馴染みのある名前だった。
旧本部の清掃。それを手伝わせる為にエレンと、そしてペトラにナナシを呼びに行かせていたのだ。
どうせ暇をしている。連れ出せと。
今日は休みの筈だ。下手をすればまだ寝ている。
一緒に行かせたはずのペトラが居ない。一人で戻ってきたのか。
「ナナシが?」
「可愛くなってます!!」
「…………………………」
告げられたその言葉の意味は、さっぱりわからなかったが。
取り敢えず、三角巾は取り外す事にした。
***
人だかり。
ナナバに、ハンジ。それにあれは104期生か。集団と言える程の人数が、そこに集っていた。中心に居るのは、どうやらペトラのようだ。
「ペトラ、何があった」
「兵長…!」
呼び掛ければ、集団が割れた。
ペトラの手のひらの上に、何かが乗っている。
「見てよこれ!!リヴァイ!!可愛いだろ!?ねぇ!?」
ハンジが興奮していた。煩い。
これ、と表現されたものは、人の形をしていた。というか、ナナシだった。
………どこからどう見ても、ナナシに違いなかった。恐ろしくサイズは違っているが。
何があれば人間が手のひらサイズに縮むのか。
エレンは動揺していたようだが、ミカサは違うようだ。マフラーに埋もれた口元は弛んでいる。
ナナバはしきりに人差し指でナナシに触れていた。その度に、体がぐらぐらと揺れている。踏ん張りがきかないらしい。
目を輝かせているのは104期のガキ共だった。かわいい、という単語がしきりに聞こえてきている。
可愛いか?縮んだ所でコイツはナナシだ。変わった所と言えばサイズだけ──…
「………なんかグッタリしてねぇか」
「起きた時点でこのサイズに縮んでしまっていたようなんですが、布団に埋もれた状態で……危ない所でした」
窒息か。
割りと恐ろしい理由だった。
ほぼ見知った顔ばかりの面々ではあったが、ミカサとジャンの側に、そばかすの女や小柄な女がいた。エレンの同期だろう。
ナナシの交遊関係は謎だった。それほど喋る奴ではない。ハンジのように一人で騒ぐタイプか、ミケやナナバのように静かに過ごせる相手としか共にいなかったようだが。最近は変わってきているようだった。
「で、原因はなんだ。ハンジ」
「………どうして私に聞くんだい?」
「お前しかいねぇだろうが」
「私は知らないよ?」
「あ?」
「えっ」
えっ、はペトラとエレンの声だった。
微かにナナシの声も聞こえたような気はする。
「いや、ほんとに私じゃないんだ。っていうか、こんな事出来るならとっくに巨人に試してるよ」
「……………………」
「……………………」
シン。とその場が静まり返る。
自然と、視線はナナシへと集まっていた。
ナナシはただ、呆然としている。
宛が外れたらしい。
その姿がどう見えたのか。
元のサイズに戻るまでは自分がお世話を!!
そう言い出す奴らが後を立たず。
最終的には、何故か俺が面倒を見るハメになっていた。
***
初めの吃りをエレンにしようかオルオにしようかですごく迷いました(笑)
戻るまで机の上で三角座りでもしていればいいと思います。
文月さま、リクエスト有難うございました!