なにかを耐える眼差しで、アッカーマンが一点を見つめていた。
その視線の先を追うと、イェーガーとリヴァイの姿があった。
特にこれといってしごかれているような様子はなく、ただ何かを話しているだけのように見えるが…
普段はクールだと言われている彼女だが、イェーガーが絡むと途端に熱くなり、なにをしでかすか分からなくなる事がある。
肉を削ぐのが得意だと駐屯兵団を脅した事もあると聞いた。
何かあれば躊躇なくリヴァイにも挑みかかっていくのだろう。
そんな事を考えながら、普段なら気配を察知されているのだろうに、未だにこちらに気付いていないアッカーマンに歩み寄る。
「話しかけないのか?」
そう訊ねてやっと、彼女の意識が自分の方へと向けられた。
はっとした表情をしている。ナナシ分隊長、という驚いた声音。やはり気付いていなかったのだろう。
一拍置いて質問の内容を理解したのか、戸惑いを滲ませながら、その瞳が伏せられる。
「私が行けば…邪魔になりますから」
「邪魔?」
「エレンが元気にしているのなら、それで…」
そんな事を言いながら、俯いたアッカーマンの頭に。
気付けば手を伸ばしていた。
その黒髪にそっと触れる。
イェーガーが心配なのだろうが…
もしかすると、だが。
離れていくその姿が寂しかったのかもしれない、と思う。
彼女とは遠い居場所で頑張るイェーガーを、必死に耐えて応援していたのだろうか。
そのまま、何度か撫でてみる。
アッカーマンは驚いたようだったが、振り払われるような事はなかった。
いつも首に巻いているマフラーに口元を埋め、じっと沈黙している。
落ち込んだ様子に見えたのは、気のせいだったのかもしれないが。
「寂しいのなら、俺が話し相手になろう」
「…!?」
「イェーガーの変わりは務まらないだろうが、近況くらいは話してやれる」
そう言って手を離す。
顔を上げ、何かを言おうとアッカーマンが口を開いた瞬間。
「ミカサ?」
と。イェーガーの声が、思いがけず近くから聞こえてきた。
バッと振り返ったアッカーマンが、目を丸くしてこちらを見ているイェーガーに、顔を赤く染めていく。
「これは…その……違う」
先程まで俺が触れていた場所に手を伸ばしながら、よくわからない否定。
何が違うのだろうか。
アッカーマンが珍しくたじろいでいる。そんな姿を眺めながら、俺はイェーガーの背後にいるリヴァイへと視線を向けた。
意外だとでも言いたげな表情を浮かべていたが、目が合うと皮肉そうな顔付きに変わる。
「随分と仲がいいようだな」
「……羨ましいのか?」
「はっ。珍しく肩入れしてると思ったが…まさか別の理由か?」
別の理由。
一瞬だけ考えてみた。
それもあるのかもしれない、と頷くと、自分で言ったのだろうにリヴァイから「は…?」という単語が返ってきた。
「イェーガーに何かがあれば、協力してお前を倒す算段を立てていた」
「え!!?」
そう答えると、リヴァイではなくイェーガーから反応があった。
話を聞いていたのだろう。
とりあえず、だから何も心配はない、と告げて、俺はイェーガーの肩を叩いておいた。
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