「あまり飲み過ぎるんじゃねぇぞ」

一応の忠告はしてみるものの、聞いている気配はない。
休日に暇をもて余したナナシを見るのはいつもの事だが、何故か今日は俺の所へやって来たのだ。どこで手に入れたのか、値の張る酒を持って。
酔ったナナシの相手か、酒か。暫く考え込んだ末に、了承した。
機嫌が悪いようには見えなかった、というのもあるが、コイツにしては珍しい行動に興味を引かれた。
その判断が正しかったのかどうかは、まだ判別出来ずにいるのだが。

実の所、ナナシと二人きりで話す機会、というものは案外少ない。
仮に二人になったとしても、エルヴィンからの指示や連絡を確認し合うだけで、あとは誰かが来るのを無言で待つ、といったスタンスである。
互いにそこまで喋るタイプでもない。一言二言会話を交わす事もあるが、それだけだ。
だが、悪くはない沈黙だった。
邪魔にならない。
数少ない、と言っても良い、気の置けない相手と言える。

妙な絡み方さえして来なければ、の話だが。ごく稀に、ハンジ以上に面倒な状態になる事があった。
その時のナナシの相手はすこぶる面倒くさい。


「たまにはいいだろう?」

「てめぇの相手は疲れるんだよ」

「俺は楽しいんだけどな」

「…は。言ってろ」


気が弛んでいるのか、笑みと言えなくもない表情を浮かべている。
思った通り、機嫌は良いらしい。
珍しい――とも言えなくなってきた。エレンと接触するようになってから、ナナシは少しずつ変わってきている。年の差がそうさせるのか、あのガキどもがそうさせるのか。
今までにはない事だった。さっきの一言にしてもそうだ。たとえそれがオフであろうとも…楽しい、などと口にする事はなかった。


「リヴァイ」


思考に耽りすぎていたらしい。
グラスを差し出してきていたナナシに漸く気付く。その意図は明白だったが、今更かと思わずにはいられない。
ただ穏やかに乾杯を求める声音。
軽く無視をしてみたが、なかなか下ろされる様子がない。じっと待たれる視線に嘆息し、仕方なく応じてやる事にした。

グラス同士の触れる音。
笑うナナシは、やはり見慣れないものだった。



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