シリアスの続きのようなもの。こちらだけでも読めるとは思います。


壁外調査がはじまる。
エレンをシガンシナまで送るための、試運転。ただ、行って帰ってくるだけ。
けれどそれにしては、あの時のナナシ分隊長は酷く深刻な目をしていた。
なにがあっても動揺はするなと。
様子がいつもとは違っていた…ように、思う。

壁の外へ出る前に。
少しだけでも、話がしたい。
その衝動に駆られて、ミカサは集まった団員の中からその姿を探した。


「――ナナシ分隊長」


馬の手綱を引き、その毛並みを撫でながら、少しだけ離れた位置にその人はいた。名を呼ぶと、柱に手綱を縛りつけて驚いたように振り返ってくる。


「アッカーマン…?どうした?」

「………分隊長は、どのあたりに配属なんですか?」

「俺は今回、右翼側にいる。何も問題がなければリヴァイがイェーガーを守ってくれる筈だ。勿論なにかあれば、俺もすぐに合流する」


いつも通り。
先日の様子が嘘のように、なにも変わらない姿だ。
リヴァイ兵長を信頼しているのか、そこに不安の色はまるでない。落ち着いた声音だった。


「アッカーマンは…確か三列の伝達だったか」

「はい」

「まだ比較的安全な場所だとは思うが…煙弾に注意して、気を付けろ」

「…はい」


それだけの会話をして。
もう戻った方がいい、そう言って馬の方へと戻りかけたナナシ分隊長の服を。
ミカサは咄嗟に握っていた。

クイ、と引かれる感触に驚いたようにナナシ分隊長が動きを止める。
裾を握られているのだとその視線が確認した後、不思議そうな声音でアッカーマン?と名を呼ばれた。

ドキリと心臓が鳴った。
何かを思っての行動ではなかった。
咄嗟に体が動いて、この状態だ。
あの時…初陣で、エレンを前にした時には自分は不安で一杯だった。
なら今も、そうなのだろうか。

…傍に来て。死なないで。
そんな事を言える相手ではない。

分隊長なのだ。まだまだ新兵の自分より、余程強い。
理解は出来ている筈なのに、拭いきれない不安が体の隅に残っているようだった。


「どうか…ご無事でいてください」


それだけを、なんとか言葉にする。
手を離して、反応のないままのナナシ分隊長を窺うと。
ふっと笑う気配の後に、その手が頭に乗せられた。


「ありがとう」






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