訓練生時代。104期生でジャン視点

パァン!とまたサシャがなにやら騒いでエレンとの会話を邪魔されたミカサがイラッとした表情を浮かべるのが見えた。
いや違った。ミカサはただ会話を遮られた事に怒っているだけだ。エレンは関係ない。


「誰もお前のパンなんて取らねーんだから静かに食べろよ」

「食事は戦争なんですよ…!取るか取られるか!食うか食われるかの真剣な…!」

「取るのはお前だけだろ!いいから座れって。また教官に怒られるぞ」


珍しくコニーの奴が正論を言っていた。
普段は馬鹿だが、たまにこうして真面目な事を言い出したりする。馬鹿だからこそ真っ直ぐなのか。
意外と面倒見がいいと感じるのはサシャと絡んでいる時だった。
ああ、そうか。
ふと思い付く事があった。


「そう言やコニー、お前兄弟がいるんだよな?」

「え?ああ、サニーとマーティン…って名前はどうでもいいか。まだ小っさいから今は故郷にいるんだが」

「お前も十分小さいだろ」

「うるせぇな…!」


ユミルが口を挟んできたせいで、会話が逸れる。だが聞きたかった事は聞けた。
やはり兄弟か。可愛がっていたりしたんだろうか。


「ジャン。なんでいきなり、そんな事を聞いたんだ?」


事の成り行きを見守っていたライナーが話しかけてくる。隣のベルトルトも俺を見ていた。
こいつらとは静かに会話ができる。たまにライナー限定で、理不尽な目に合っている姿を見かけたりする事もあるが、そっと離れてしまえば俺には害が及ばなかった。


「別に深い意味はねぇが…兄弟って珍しいだろ?あんまり聞いた事がねぇ。というか知り合いじゃコニーだけか」

「えっ?」


意外なところから、反応が上がった。
今のはアルミンだ。
話を聞いていたのだろうが、心底不思議そうな、驚いたような声音だった。
見れば、アルミンだけでなくエレンやミカサまで目を丸くして俺を見ている。
そんなにおかしな事を言ったか?


「なんだ…?別に変な事は言ってないだろ?」

「ジャン…お前、知らなかったのか…?」

「ああ?何がだよ。言いたい事があるならはっきり言いやがれ」


エレンが訊ねてくるが、何の事だかわからない。なんなんだ。
要領を得ない話に苛々としかけていると、エレンの隣に座っていたミカサがじっと俺を見ている事に気が付いた。
ドキッ、と心臓が跳ねる。


「兄弟なら、私にもいる」

「は…?」


だが、言われた言葉はまったく理解が出来なかった。
ミカサに兄弟…だと?
間違いなく初耳だと言える。


「…まさか、エレンが弟だとか言わねぇよな…?」

「……?」

「はあ?」


エレンはまだしも、ミカサにまで何言ってんたコイツ?というような目で見られた…!いや俺そこまでおかしな事言ったか…!?一番ありうる可能性を述べただけだぞオイ…!
そんな俺の内心のダメージなど知るよしもないとばかりに、さらなる爆弾が落とされた。


「お兄ちゃんがいる。ジャンも会った事がある筈…というか、この前紹介した」

「え…!?は!?紹介?俺に!?」

「そう」

「………………」


おにいちゃん、って…
なんだその可愛い呼び方は…

やべーまったく記憶にねぇぞ。
まさか俺は記憶喪失にでもなったのか?
ぐるぐると混乱しながら辺りを見回せば、俺とおなじように混乱しているらしい顔がいくつもあった。
コニー、ライナー、ベルトルト、ユミルにクリスタもか。サシャは聞いてねぇなあいつ。アニはただじっと話を聞いている。


「……なぁ、すまねーが話が見えない。名前を教えて貰えないか?」

「ナナシお兄ちゃんだけど」

「ナナシか。………ナナシ!?」

「って、分隊長の!?ミカサの兄貴だったのか!?」


コニーもびっくりしている。
ライナーはガタリと席を立ち上がっていた。
そりゃ驚くわ…!つーかやっぱ誰も知らなかったんじゃねーか!

皆の反応に戸惑っているらしいミカサの様子は可愛いかったが、今回ばかりはそれだけじゃ終われない。
エレンにアルミンもだ。
食事が終わってから、話してもらわなければならない事がたくさんあった。



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