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 まん丸い目。随分と驚いているみたいだ。

「髪の毛が……」
「似合いますか?」

 伸ばしっぱなしにしていた髪をばっさりと切ってみた。ショートなんていつぶりだろう。どきどきしながら感想を求めてみたのだけれど、実際のところ欲しい言葉は決まっている。

「髪の毛がない」
「切ってみました」
「どこ行ったんだ?」
「どこって、美容室に」
「切ったやつ」
「髪ですか? それは美容室で処分してくれましたけど」

 髪の行方なんかを聞かれるとは思っていなかった。戸惑いながら答えると、御手杵の表情はどういうわけか曇ってしまう。
 私は少し考えて、いたずらっぽく笑って尋ねてみた。

「髪の先まで愛してるとでも?」

 口に出してからその言葉の恥ずかしさに気づく。冗談めいた口振りで言ったけれど、背中がむず痒くて仕方ない。

「んー……愛してはないけど」
「ないんですか」

 私の心なんて知らない御手杵は大真面目な顔をして、肩にさえ届かなくなった毛先に触れてくる。
 じゃあその執着はなんなのだろう。愛してると、そんな気障なことを言ってほしかったわけではないけれど、いや、本当にそういうわけではないけれど、なんだかがっくりしてしまった。
 だって結局、可愛いの一言も貰えていない。それなのに御手杵は複雑そうな顔をして黙り込んでいる。切ったのは失敗だったんだろうか。数時間前に戻りたい。戻って、トリートメントだけしてもらって、綺麗になって帰ってこれば良かった。急に悲しくなってしまって、何も言えないまま、膨れっ面同士で向かい合う。

「愛してはないけど、髪の先まで俺のだと思ってた」

 御手杵はそうこぼして、小ざっぱりした頬に手のひらを添えてきた。

「あー……そんな顔すんなよ」
「もう切らない」
「え、切っていいよ」

 そうは言うけれど、たぶん嫌なんだ。そんな顔をしている。

「じゃあ、切ってもらった髪、持ち帰ってきます」
「え? ……それも別にいいや。なくしそうだし」
「なんですかそれ。あなたのなんでしょう」

 自分のものだと言う割には扱いが雑だ。本当によく分からない。自分の発言も、思い返すと相当意味が分からないけれど。
 もだもだと沈んでいく私の両頬を、御手杵は指先で軽く摘んで左右に持ち上げた。

「っ、ちょっと……!」

 抗議の声を上げる。すると、御手杵はびっくりするくらい優しい顔で笑いかけてきた。

「あんたに泣きそうな顔させたのが嫌だ」
「……こんなことで泣きませんし」
「どうかなあ」
「……短いの、嫌なんでしょう?」
「嫌じゃないって」
「本当に?」
「ああ」

 その言葉だけで心が落ち着いていくのを感じる。単純な女だ。嫌になる。

「じゃあ、可愛い?」
「可愛いよ」
「……うん」

 結局ねだるし。ねだって言ってもらった言葉にさえ喜んでいるし。
 私が一人でひっくり返って悩んでただけなんだろうか。思えば御手杵は一度も、似合わないだとか長いほうが良かっただとか、そういった内容は口にしていないのだから。

「……私、御手杵のこと、好き過ぎて嫌です」
「俺もあんたのこと大好きだぜ」

 あっけらかんと笑う御手杵の返事は、少しずれているようでいて全く間違っていない。
 無骨な指が短くなった髪を梳く。その仕種に、確かな愛おしさを感じていた。

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