act1-3


子供を担いでいるオリゲルトと、それにご機嫌そうにイノージュ。イノージュが何度か楽し気にオリゲルトに話しかけるが、それに対して彼は無言か、一言返すのみ。どう見てもこの二人が意思疎通を取れているように見えない。
オリゲルトはイノージュを無視しつつ、なんの迷いもなくあと数分で崩れ落ちそうな建物の中を、スタスタと進んでいく。向かう先は、出口ではなく屋敷の奥の方……シェンツァが向かった方だ。

一つの部屋の前で、オリゲルトはぴたりと足を止めた。しかしドアノブに手をかける様子はなく、そこで停止しているだけだった。
その様子に、イノージュが不思議そうにして彼の名前を呼びかける。オリゲルトは反応がなかったが、その代わりに部屋の内側から扉が開いた。

「とにかく!帰ったら部下に任せずちゃんと自分で始末書かけよなラル……うお!?オリゲルト!?」
「ああ?なんだ、いたのかテメェ等」

部屋からでてきたシェンツァとラルフィー。シェンツァは無言で仁王立ちしている不気味な男が突然目に入った為、少し驚いた様子を見せた。しかし、そんなシェンツァは特に気にせず、オリゲルトは担いでいた子供をラルフィーに突きつけた。
大きな瞳から、大粒の涙を流す子供。怯えた様子でラルフィーを見上げる。それに対し、ラルフィーは眉間に皺を寄せて嫌悪丸出しに舌打ちをした。

「なんだぁ?この餓鬼は」
「あのねあのね!ボクが見つけたんだよ!ねぇねぇ連れて帰ろー!」
「連れて帰る、なぁ……」

無邪気に楽しそうに、新しい友人を迎え入れるようにイノージュは飛び跳ねながら言う。ラルフィーの表情とは完全に対照的だ。
ラルフィーはまるで猫を掴むように、子供の襟を掴みまじまじと泣き顔を眺めた。その様子は、まるで品定めをしているようにも見える。

ずっとへの字にしていたラルフィーの口元が、ふっ、と釣り上がる。もしかして殺されないのだろうか、子供の脳裏にその発想が浮かび、ほんの少しだけ生気の戻った顔を見せた。



−−−瞬間、ごとり、と床に何かが落ちた。

「却下だ」

何の感情も写していないラルフィーの深緑色の瞳は、頭を失った子供の体だけを眺めた。切り口から生暖かい赤い液体が噴き出し、その場にいる全員が軽くそれを浴びる。
しかし、その行動に驚愕する者はこの場に誰一人といない。

身体のみとなった子供を、ラルフィーは何のためらいもなく放り投げた。ぐしゃり、と壁にぶつかり床へと崩れ落ちる。

「ぶー、ラルフィーのケチー!」
「ケチとは関係ないが……一応子供は"保護"対象だとお嬢さんは何度も言ってるだろラルフィー。たまにはそういうのも従えよ」

額を抑え、ため息を尽きながら呆れを隠せないシェンツァ。それに対して、たった今子供を何の戸惑いもなく殺した男は、足元で転がるその子供の頭を踏みつけて失笑した。

「ハッ、なんで俺様がわざわざ餓鬼を保護なんてしなきゃいけねぇんだよ。……なぁ?オリゲルト?」
「………」

少し間を開け、ラルフィーは意味ありげにオリゲルトへ尋ねた。しかし返答はやはり無し。相変わらず包帯で巻かれた表情の下は見えることはないし、そもそも表情が変わった気配もない。
そんなまるで機械のような真っ黒な人間に、ラルフィーは不快そうに舌打ちをこぼした。


「……用が全て終了したなら、撤退しろ。命令だ」
「もーうお嬢様ってばホントすぐ帰って〜って言うんだからー!つまんなーい!!」
「こいつらも反発するなら、もう少しマシな強さじゃねぇと殺り甲斐ねぇっつの」
「…………」

先程のことなど無かったかのように、この場とは似合わない賑やかさで黒づくめの人間達は建物を後にしようとする。
ただ一人だけ、部屋に転がる子供の頭とベッドに残された女性を哀れむ目で眺めた。

「……可哀想に、な…」

その言葉は、燃え盛る炎に掻き消された。呟いた本人も、自分で呟いた言葉を耳に入れないようにして、瞼を落とし、三人に続く。

ぱちん、と彼が指を鳴らした瞬間、不自然に燃えていなかった部屋はあっという間に炎の海に変わった。

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