「こんにちはー」

「あ、トウコ!」


ぶら下がって遊んでたらしい吊革から手を離してスタッと着地するクダリさん。車掌さんがそんな事していいの、なんてもう言い飽きた台詞。突っ込みは入れない事にする。

「バトル?バトルしに来たの?」
「今日はバトルオフ日です。遊びに来ただけです」
「えーオフ日とかあるの、てかトウコ常連すぎ」

普通の人だったらバトル以外でここまで来るの許されないよー

改めてそう聞くとなんだか嬉しくなった。
トウヤ君と私だけは特別にここまで来る事を許されてるらしい。何故かはよく解ってないけど。

「......仕事しないんですか?」
「え、だって挑戦者来ないんだもん仕事のしようが無いから」
「ですよねー」

ちゃんと仕事してるクダリさんが見たかったけど、そういえば挑戦者が来る事自体稀なんだった。
クダリさんの所まで勝ち上がれる人はごく僅かで、「もしここまで来れたとしてもあっさり倒せちゃうからつまんなーい」って聞いたのはもう随分と前の事。

「そういえば聞いてよトウコ、昨日ノボリがさー」

ぼんやりしているとクダリさんが元気良く話し始めた。
クダリさんはすごくお喋りな人だと思う。一度喋り出すとずっと止まらない。でも私が途中で話を入れてもちゃんと聞いてくれる。
クダリさんとお話ししたくて、こうやって7両目までたまに遊びに来る。

「それでね、デンチュラがそれを...ってトウコ、きいてる?」
「聞いてます聞いてます。続きどうぞ」



結局夕方まで挑戦者が来る事は無く、二人でひたすら会話を楽しんだ。窓から外を見る事は不可能だけど、時間的にもう外は真っ暗だ。

「じゃあそろそろ帰りますね」
「うーんもうちょっと話したかったけど、もう時間も遅いしね。気をつけて」

乗降口のドアが開いた。
二人一緒に降りる。出入口まで見送ってくれるらしい。
出入口に着くまでにも会話が続く。少し距離があるけど、すぐに着いてしまった感じがした。


「じゃあねトウコ、また遊びに来て」
「 あ、....あ、の」
「?なに、どうしたの」


地上に繋がる階段の少し出前、
どうしてこんな事言ってしまったのかと後に後悔する事になる。


「私、クダリさんとお話しするのすごく楽しくて、好き、です」

今すぐ走って帰りたい。恥ずかしい。言葉も途切れ途切れだし。


「...それだけです、じゃあ」
「待って」

後ろを振り返った瞬間、パシッと手のひらで顔を挟まれた。
困った。どうしたらいいの。
気付かれる前にここから逃げたい。


「ボクも好きだよ

トウコとお喋り、楽しい」


驚いた。
まさかそんな言葉を返されるとは思ってなくて、何を言えばいいか解らなかった。


ゆっくりと引いていく顔の火照りとは全く反対方向に手袋からかすかに伝わるクダリさんの体温が急激に上がっていった事、バトルの時とはまた違う真剣な顔をしていた事は覚えている。


それまでの事もそれからの事も、今はもう忘れてしまった。













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我が家のトウコちゃんは恋できない子です
両思いだとわかるとすぐ冷める



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