じっ、と視線を送る。
気付かない。いや、気付いてんのかもしれないけど、全然こっち向こうとしない。
和泉は品川の少々強めな目力にも気付かず動じず、ひたすら手にしている分厚い(内容はよく解らない)本に視線を落とし動かない。
暇だ。
いつも生徒会室に入るタイミングは大抵皆一緒の筈だが、何故か気付くと俺が最後まで居る事が多い。俺が漫画を読み終えるまでに仕事とかやりたい事を済ませて、早めに帰るからだ。
今日は珍しく、漫画を閉じた瞬間に視界の端に和泉が映った。から、しばらく眺めてやる事にした。暇だからな。
(……何読んでんだこいつ)
和泉が手にしている本を凝視した。が、ここから少し距離があるのであまり見えない。
ソファから立ち、少し近付く。
ああ見えた。
…うわ、六法全書なんて読んでやがる。よく読めんな、そんなの。
「………」
ページを捲る音が、部屋中に響く。
目に映る物全てが夕日を受けて赤く染まっている。
そろそろ帰りたい、と思っているところなのだが。
和泉だけ置いて帰るのもなんか悪い感じがしなくもないから、一緒に帰ってやろうと思った。仕方なく、だ。
また、ページを捲る。
まるで周りに誰も居ないかの様に、本だけに集中している。
「……〜っ」
最初から声をかければいいだけの話なのだが、何故か声をかけたら敗けだと、自分の中でルールが決定してしまっていた。
だが、そろそろ我慢の限界だ。
和泉の座っている椅子まで距離を詰める。そして、一度の傾きもなく顔に掛けられていた眼鏡を奪ってやった。
「…!……てめぇ、何す「帰んぞ。」
和泉の言葉を遮り、やっと言いたかった言葉を口にした。
瞬間、驚いた顔をされた。
あれ、俺何か変な事言ったか今。
和泉がにや、と意地悪そうな顔して笑った。
「……ああ、帰りたかったのか?一緒に」
「なっ…ち、違ぇ!!!只お前だけ置いて帰んのも悪い気がしたから声掛けてやったんだよ…!!勘違いすんな!!」
はいはい、と軽く言葉を流しながら、耳まで赤くした品川を抱き寄せた。
優しく、耳元で囁く。
「…じゃあ、さっき俺に送ってきた視線は何だったんだろうなあ?」
品川の肩が跳ねた。赤い顔が更に赤くなる。
数秒の沈黙の後、空中に放られていた手を、そっと和泉の背中に回した。
「…気付いてたのかよ」
「当たり前だ、気付かない方がおかしいだろ…あれだけじっと見られれば」
「本ばっかり読みやがって、って目で訴えてたんだよ」
「それはこっちの台詞でもある」
どうやら思っていた事は同じ、お互い様だった様だ。
「…帰るか」
幼稚な気の引き方
(そろそろ眼鏡返せ)
(……手、繋いでくれたらな)
(………お前、可愛いのもいい加減にしろよ)
title:恋したくなるお題