冷たい風が背中に優しく触れる、秋空の少し曇った日。

午後の授業を屋上で睡眠時間に充ててやろうと思い来たものの、あまりの寒さに後悔の波が押し寄せた。

昨日まではこんなに寒くなかった筈だ。
もう冬か、寒いのは苦手だ。

なんて一人脳内でぶつくさと文句を吐きながら、生徒会室にでも行って寝るか、と方向が決まり、冷えたコンクリートから腰を離した瞬間


「あ、品川君居たのー」


階段の近くの陰に、半袖に団扇という今の気温を完全無視した格好の見覚えのある奴が座っていた。
ふわふわした明るい笑顔で俺に手を振る。
寒さで体を縮めながら、そいつの隣まで足を運び、再び腰を降ろす。


「…何でお前がここにいんだよ、秋田」

「んー…ちょっとサボりたくなっちゃってさ」

「なんつー寒い格好してんだよ…お前の周りの温度は一年中夏なのか」

「まあ、そんなに寒いとは思わないけどさ」


いつもと変わらない、柔らかな笑顔。
にこ。いや、にへ、か。
気の抜けた効果音を頭の中で浮かべた。本当にいつ見ても平和な顔してやがる。
この笑顔を見るだけで、自然と胸の辺りがふわっと温かくなる、ような気がする。認めたくないけど。


「品川君もサボり?」

「…見りゃ解んだろ」

「だよねえ」





「………」





音が聞こえなくなった。
風の音以外は。


そして自分の心臓の鼓動以外は。



何故。
たった今こいつの隣に居る事を自覚した、それだけで、一斉に全身の血が顔に集結した。
自然と、鼓動が速くなる。



「…わ、く……


品川君、



おーい、品川君聞いてる?」


「……っえ!!?…あ、ああ…聞いてなかった…悪ぃ」

「寒そうだけど、大丈夫?」

「…え、」

「いや、だってずっと丸くなってるからさ、大丈夫かなあと思って」

「ああ、すっげー寒い、耐え切れねえ!だからちょっと生徒会室でも行って寝てくる」



顔が熱い。
今絶対顔赤い。

なるべく顔を見られないように、素早く逃げる様に歩き出した。

屋上のドアノブに手を掛けた瞬間、


「あー、待ってよ品川君」


良い事か悪い事か、秋田に呼び止められた。


「…なんだよ」


わざと眠たそうに目を擦る動作を繰り返しながら、顔を隠しつつゆっくりと元の位置に戻った。


「何か用でもあんのか…」

「ほら」



「……へ」



「おいでよ」



それだけ言うと、秋田が両腕を広げて笑った。


目を丸くした。
いや、元々丸いものなのだが。

今こいつ何て?何て言った?


「寒いんでしょ?」

「……え、う、あ…まあ、寒いとは、言った、けど」


言葉が上手く発せない。
頭が真っ白、いや、真っ黒になった、脳が機能しなくなったとでも言った方が良さそうか。


秋田の「俺の胸に飛び込んでおいで」状態。
一体俺はどうしたらいいんだ。


色々考え込んでいるうちに、



「えい」


手を引かれて、


「ぅわ…、…っ!!」


ぎゅ、と抱き締められた。


「…あ、きた…!?」


そのまま。何も聞こえない。
しばらく抱き合うと、お互いの体温が染みて混ざった。


「あれ、品川君…身体あったかいね」


寒いんじゃなかったの?と疑問符が投げられたが、見もせずスルーした。



お前のせいで熱くなった、なんて言えない。



「ドキドキしてるでしょ」



「………!!!!」


バレた。
更に鼓動は速くなる。これ以上は、きっとない。


「解るよ、こんなに近いんだから。」


「……るせ」



鼓動は思うより正直で



秋空が赤く晴れた。


(品川君、顔赤いよ?)

(違ぇ、空が赤いんだよ空が)









title:恋したくなるお題

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