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シャーロック・ホームズ

 兄は夫人の荷物を持っていた。留守を言い渡されていた私は、夫人の叔父とともに兄を迎えた。
「ありがとうございます」
 兄は緩やかな微笑を浮かべて、お気になさらず、と流れるように言った。夫人の叔父は兄から荷物を受け取り、夫人とともに馬車に乗って帰って行ってしまった。
 兄は二人を見送ると、ドアを閉めた。ドアは冷たい音を立てて閉まった。カツカツと硬い靴底が床を叩く無機質な音が響く。
「レディーには優しいんだね」
 すらりと長い背に向かってそう声をかけると、兄は振り返った。
「厄介だからな」
 冷めた双眸は私の目を射抜くようだ。怖くないかと問われたことがあった。ただ、怖いと感じたことはなかった。その冷淡な顔つきことが、兄だからだ。兄は、部屋に戻るとまるで倒れこむかのように、ソファに腰かけた。表情の映らない顔を覗き込むと、兄は静かに瞳を閉じた。

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