快晴で、かといって暑すぎない日になった、体育祭当日。



ミョウジさんの頬や手の怪我は完治しているようだった。

僕がミョウジさんの右手になる!とか、昔の自分は言ったけど、結局それらしい事はしなかったし、出来なかった。





「ティア達が羨ましいです。ナマエと同じチームなんて」

「仕方ないですよエステリーゼ様、風紀委員と生徒会以外の生徒は体育の成績で平等に分けられますから」



風紀委員のチームの陣地をさっきからずっと見ているエステリーゼ様は、どこか寂しそうだった。

それもそうか、この前大事なアルバムが燃えてしまったんだ。







各チーム、といっても2チームしかないが、それぞれのチームの中央には台座があって、その上に無駄に装飾が施された椅子がある。
僕には豪華すぎるくらいだ。寧ろ、パイプ椅子で十分。やっぱりマンモス校は違うな…。




生徒は開会式の並び方になってください、との放送がかかった。



大して気温は高くないが、2000人も人が集まればどうしても暑く感じてしまう。

長い長い注意事項を聞かされたり、教頭のどうでもいい話なんてほとんど耳に入らなかった。生徒会長だから口には出せないけど。

ただ、ピオニー校長の話は短かったからちゃんと聞いていた。





選手宣誓、各チーム代表は前に。

僕とミョウジさんは校長の前に立ち、僕から宣誓する。毎年のように、喋る内容はほとんど変えていない。
次にミョウジさん。きっと彼女も去年の風紀委員長と同じ事を言うだろう。



「不幸にも、青チームにも大好きな皆がいます。ですが、絶対手は抜きません。故に、今年は私のチームが圧倒的な差で優勝するのは当然です。4年連続風紀委員会が勝利することを誓います」



会場にどよめきが走った。
予想外すぎる……。こんな宣誓した人は前例がない。

言葉からわかるように、「負けるわけがない」。そう言いたいんだ、彼女は。





「あまり良い功績がないまま負けてしまうのは残念だけど…いい勝負、しようね」



ニッコリ、と笑顔を浮かべてミョウジさんは去っていった。








開会式が終わって、自分のチームに戻るとソディアが血相を変えて寄ってきた。それはもう般若と形容してもいい程に。



「会長!あの女に他に何か言われませんでしたか!?」

「あまり良い功績がないまま負けてしまうのは残念だけど…いい勝負、しようね。とだけ」

「あの女にはあまり近づかない方がいいですよ。あの女は他人を苛立たせるプロですから」

「え…」

「ソディア!さっきからナマエのことを“あの女”って言わないで下さい!それにナマエは優しい人です。他人を苛立たせるプロなんかじゃない」

「エステリーゼ様……」

「ですが、彼女は負けた相手に、無駄な時間使わせないでよ。と言うんですよ」

「それは…」

『おぉーっと!誰がこんな結果を予想したでしょうか!将棋部員であるケイト選手!堂々の1位!陸上部員のオスカー選手は4位!』



険悪な雰囲気に、放送部の元気な声が響く。
ある意味救われた。こんな雰囲気の2人をどうしようか、困っていたところだった。
ガイの言う通りに、女の子って怖いな…。



「馬鹿なっ!陸上部が将棋部に負けるなんて…!人選にミスはないはずなのに」

『なんと!最初のレースは1、2、3位を白チームが独占!各レース3位までが次のレースへと進めます』



白チーム、つまり風紀委員長擁するチームの陣営に目をやった。豪華な椅子に座るミョウジさんは堂々としていた。その周りにいる人達も。
揉めている僕達とは大違いだ。










「あらー?フレンちゃんのチーム、かなり圧されてるじゃない」

「!レイヴン先生!」

「まぁ予想通りだけどさー。にしても、男子100メートル走でこっちのチームから次の準決勝に進めるの3人だけって少なすぎじゃない?」

「そうですよね…」

「でもこの結果なら納得いくわ」

「何がですか?」

「ん?ナマエ、出場するのは騎馬戦と最後の会長VS風紀委員長だけだ、って言っててさー」

「え、でも会長と風紀委員長は必ず同じレースに出る事がルールですよ?」

「それがね、私が出たら会長の活躍の場がなくなるから委員総会で押し通したらしいのよ」



よかったわねフレンちゃん、笑って言うレイヴン先生を無視してミョウジさんのいる所へ走った。
白チームの証である白のジャージの中を生徒会のチームの証である青のジャージを着た人が走っていれば、自然と注目の対象となる。

時々、白のジャージの人に睨まれたけど気にしなかった。別にぶつかったわけでもないし。



「ミョウジさん!」

「五月蝿い副会長を引きつれて何か用?」

「何か用?だと?貴様、騎馬戦と最後の競技しか出ないとはどういうつもりだ!」

「私が出なくても勝てるから出なくていいかなーって」

「だからといってお前はルールを破るのか」

「そうだよ。でも、そんなに出てほしいなら出てもいい」

「ああ、出ろ!今日こそお前に負けの2文字を刻んでやる!」

「生憎、刻まれるのはそっちだよ。私は負けた事がないからね」

「会長を見縊るなよ。会長は凄いお方なんだ!」

「愚かだよね、尊敬している会長が悉く負ける姿を見たいなんて。それに自分のチームの点数を更に下げる事になるのに」



口元を歪ませて笑っているのに、眼が笑っていなかった。

この2人には因縁でもあるのだろうか…。
ソディアはミョウジさんの事になると必ず攻撃的な態度をとる。対してミョウジさんは普通に喋っているのに、凄く憎まれ口だ。



「会長も可哀想だよね。自分じゃ勝てないから他人を使って勝とうとしてる副会長に目をつけられるんだもの」

「!」

「努力する人は好きだよ。でも…努力しても成長しない人は嫌い」



台座の上にミョウジさんがいて、僕達が下から見上げているからだろうか。威圧感がひしひしと全身に伝わってくる。
こんなミョウジさんは見た事がない。声も低くて、いかにも怒っているようだった。目付きも少し変わっている。



ミョウジさんは腕組みをしたままの姿勢で、「言いたいことはそれだけか」とやや高圧的な態度で言った。

睨まれてはいないけど、蛇に睨まれた蛙のような気分だ。


こめかみに汗が垂れるのを感じながらコクリと頷くと、ミョウジさんはふっと目を伏せた。










ソディアがミョウジさんに宣戦布告した事を同じチームのユーリに伝えると、お前なんで止めなかったんだ!と怒られた。

何故止める必要があるんだ。本来のルールがそれなんだから別に止めなくったって……。



「去年俺が“決闘”で負けて、骨折して帰ってきた事あったろ」

「あったね。それがどうした」

「その相手がナマエなんだ。女の風紀委員がいるって聞いて、試しに決闘を申し込んだんだ。舐めてたのもあるが……一撃で終わったぜ」

「でも…決闘と競技は違う」



ハァ…と、深いため息を吐かれた。心外だな。

決闘なら大怪我するのも分かるが、競技で大怪我するなんて、まずない。



「前にバスケの授業あったろ。それと同じ事が起きるかもしれねぇ。短時間で圧倒的な差をつけられる」

「でも、メンバーは体育の評価で等しく配分されているし、全競技にミョウジさんが出るわけじゃない」

「いい加減気付けよ。あっちはな、大将直々に出なくても優勝するって考えなんだよ」

「っ…」



僕だって薄々気付いてる。勉強を教えてもらって、体育のバスケで完敗したんだ。


きっと彼女は自分のチームのメンバーを知って、それぞれに適応した練習をさせたんだろう。
だからメンバーを信頼出来、自分が出る必要はないと判断した。

今日の為の練習を各自に任せていた僕と、今日の為に責任を持って各自の練習に付き合っていたミョウジさん。
どちらが勝つかって、そんなの言わなくてもわかる。



結果なんてわかりきっている。
それでも、会長として諦めるわけにはいかないんだ。













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