中間も終わり、いよいよ体育祭が近づいてきた。

体育祭のしおり作成や、各委員会との連携をする為に委員総会を開くなど。1学期で一番忙しい時期。



今、朝の6時。
いつもよりかなり早く起きて、学校に来たのはいいんだけど……校門を開けているミョウジさんに睨まれた。
何故?



「あ、あの…おおはよう。ミョウジさん」

「おはよう」

「機嫌、悪そう…だね」

「朝から親が煩くて」



そんなに怖い顔してた?なんて言って、いつもの無表情になった。
無表情よりも笑ってる方がいいと思うな…



「先に温室の方から開けるの。生徒会室は後だからね」

「あ、ありがとう」



1人ぽつんと生徒会室の前で待つのもあれだから、ミョウジさんのを着いていく。



「……………」

「……………」

「…………………」




なんだか……沈黙が重い。

右手をポケットに入れて、左手に各部屋の鍵を持ってすたすた前を歩くミョウジさんは本当に小さい。
体格は恵まれたものとは言えないけど、技術でそれをカバーしているんだと思う。





温室に着き、鍵穴に鍵を入れたミョウジさん。今なら話せる。



「ミョウジさんはさ、エステリぶっ」



全部言えなかった。何故って?
パリーンッ!って温室の窓が割れたんだ。中から飛んできたソファーで。
割れた窓ガラスとソファーから僕を守るように、ミョウジさんが僕を抱き締めた。そう、顔にはミョウジさんの胸が当たっている。胸がね。

ミョウジさんの右腕にソファーが当たって、鈍い音が聞こえた。

一体、なんなんだ……!?。





「会長、その服脱ぎなよ」

「…………」

「脱がしていいなら脱がすけど」

「胸が………」

「もう勝手に脱がすからね」



ソファー、温室、ガラス、知らない人、胸。これらの単語が頭の中をぐるぐる回っている。

鼻栓を突っ込まれても、ブレザーを脱がされて、カッターシャツも脱がされても反応出来ない。


ぼーっとする思考の中、ミョウジさんの顔が視界いっぱいに広がった。
そして……赤く染まった2つの鼻栓が飛んだ。




我に返った僕は、保健室で上半身裸で鼻血を流す自分の状況が理解出来なかったが、ミョウジさんの説明で理解出来た。



「ミョウジさん、頬!それに右手から血が」

「大した事ないから気にしないで」

「大した事あるよ!ここ座って!」



別にいいのに…と呟きながらも頬の切り傷を消毒させてくれる。思ったよりも浅くてよかった。ガーゼを貼って頬は終わり。
続いて右手をと触れば、包帯が巻かれていた。



「包帯、取っていい?」

「何も聞かないならね」



了承の意味で右手の包帯を外していくと目を疑った。
昨日の出来事を思い出す。ミョウジさんの右手にある傷と、昨日あの人がナイフで刺された傷が全く一緒。

そういえば髪と瞳の色が同じ。でも髪の長さが違う。昨日のあの人は腰まであるロング、ミョウジさんは肩にかかるくらいだ。
そんな1日で髪が伸びるはずがないから別人か。


ミョウジさんの顔を見ると、彼女は真っ直ぐ僕を見ていた。



「袖、捲るよ」

「骨折れてると思う」

「……すまない」



ミョウジさんの右腕は赤く腫れていた。ソファーが当たった時の鈍い音は骨折した音だったのか。



「別に気にしなくていいよ。風紀委員ならこれぐらいあり得るし、当分不自由だろうけど直ぐ治る」

「なら!僕が君の右手になる!」










とは言ったものの、何をすればいいのか分からない。風紀委員の手伝い?朝の仕事を手伝うのは怒られたけど、書類運ぶのくらい許されるだろう。



にしても意外だ。ミョウジさんと結構話せるなんて。
僕は生徒会長で彼女は風紀委員長。歴代を見ても、会長と風紀委員長は同じ空気を吸う事すら嫌なくらい、嫌いあっていた。

もしかして僕とミョウジさんは仲がいい、という事か…?





「フレン、良くやったな!初の満点だぞ」



まるで自分の事のように喜ぶ数学教師は大人とは思えない。腕を振り回して、感動を体で表現する大人はきっとこの人だけだ。
今、授業中だからもう少し大人しくしてほしい。



「どんな勉強やったんだ?今まで満点取った事ないのに」

「ミョウジさんが、教えてくれたんです」

「は?!」

「本当ですよ」

「他人に教えたのは意外だけど、それなら納得だな。ミョウジも満点だし、模範解の中の模範解だったし」



ぎゃふんと言わせられなかったけど、やっぱミョウジは凄いな。
あれだけ意気込んでいたのに切り替えが早すぎる。悪く言えば諦めた。普通、次こそは!ってなるのに。


数学教師に多少疑問を抱いていた僕は、自分より後ろに座っているガイとソディアがどんな表情をしているか知る由もなかった。








何をすればいいか思いつかないけど、本人に聞けば何をしてほしいか言ってくれるだろうから本人に聞けばいい。


だけどその本人が捕まらない。全ての休み時間を費やして第一応接間に行ってもいなかった。
右腕を折ったから病院に行ってるかも、と思ったけど1日中病院というのはおかしい。








タイムマシンがあるなら過去に戻りたい。今朝まででいいから。

ミョウジさんを1日中探していた自分を今になって恨むとは。



「会長!体育祭の書類が全て消えてます!」

「どうしましょうフレン……あと少しで委員総会が始まってしまいます!」



はっきり言って、忘れていた。今日は委員総会だ。

書類はまだ各委員長、副委員長に渡せるような物ではない。そもそも、それが消えてしまっては終わりだ。
生徒会のメンバーは勝手に持ち出していないと言う。考えられるとすれば盗まれた。


時間は止まってくれない。総会まであと2分しかない。



「こうなったら本当の事を話すしかない」

「会長…」

「行こう」





今回の委員総会では委員長達の他に、運動部の部長も参加する。文句を言われる覚悟はある。

ミョウジさんはこんな僕に幻滅するだろうか。僕としては仲良くなってきたと思う。
大事な書類をなくした会長は後にも先にもいないだろう。リコール申請されてもおかしくないな。




「この部屋って、第一会議室…ですよね?」

「はい………え、」



この部屋は確かに第一会議室。ネームプレートも第一会議室と書かれているから間違いない。


ちゃんと全員いる。ミョウジさんも。全員、こちらを見ている。


どうして……彼らの前に、体育祭の書類が置かれているんだ。消えたのに。
じゃあ此処にいる誰かが書類を盗んだのか?



「遅かったね。総会、終わっちゃったよ」



ニコリ、と笑顔のミョウジさん。それに反して周りの視線は冷たかった。



「終わったって…どういうことだ!?」

「そのままの意味だよ。各委員会、部活との打ち合わせ、確認も出来た。こうして体育祭の書類も、生徒に配るしおりも完成した。あとは会長が書類に目を通して了承してくれれば、私達は解散なんだけどな」



ミョウジさんは笑顔を浮かべているのに、彼女の言葉は僕の心にグサグサと刺さった。

自分の席に置かれた書類に目を通しても、欠点がない。完璧だ。



「貴様…!勝手にこんな事をしていいと思っているのか!会長はこの方だぞ!?」

「いいに決まってんだろ。俺達がナマエに頼んだんだから」

「支持率34%の奴と99%の奴、どっちを頼るかって言われたら99%のナマエだろ」

「現実を知らない生徒会役員には悪いけど、そろそろ現実を知ってもらわないと困るわ」

「なぁ、ナマエが風紀委員長と会長職を兼任したらどうだ?」

「会長職に興味ないって言ってるでしょ。私は風紀委員長になりたかったの」




突き付けられる現実。

会長になるはずだったのは選挙で支持率99%のミョウジさんで、34%の僕じゃなかった。
彼女は風紀委員長になりたかったから、会長職を譲った。



「私は信じないぞ!支持率99%の証拠を見せてみろ」

「そう言うと思って持ってきたよ。統計と、ナマエに票を入れた人の名簿を」

「教師推薦枠で副会長になったらしいけどさ、いい加減自分の立場弁えなよ。ソディアちゃん」



委員長、部長達の苛立ちが嫌でも伝わってくる。

僕達は、踊らされていたんだ。彼らに。まさか今頃気付くなんて馬鹿だな。
生徒会に対する意見書が月に1つ来るか来ないかの理由はそれだったんだ。

僕は、会長失格だ。



「会長」

「ミョウジさん……」

「そんなに落ち込むことないよ?会長なりに頑張ってるみたいだし、今回の事は私が勝手にやった事だから」



元気出して?困ったように彼女は笑うけど、彼女の周りは相変わらず冷たい視線を送ってきた。



「それで会長、了承は頂けるかな?」

「あぁ」

「じゃあ先輩方、行きましょう」





誰が、風紀委員長は孤独なんて言ったんだろう。彼女の周りには沢山の人が集まる。

ミョウジさんは何でも完璧に出来て凄いな。羨ましい。憧れるよ。




ソディアの机を叩く音だけが、虚しく第一会議室に響いた。











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