中間テストが終わった…。4日間に渡るテストがやっと終わった。


数学の時は自分でも驚いた。あんなにすらすら解けて、時間が余って見直しが3回も出来た。
数学だけだけど。





テストが終わったから、との事でエステリーゼ様から皆で美味しいと評判のクレープ屋に行きませんか?と誘われて、校門に集合した。
勿論、ミョウジさんの姿はない。



「フレン、数学はどうでした?」

「あぁ、暇でした」

「え!?」



あ、暇でしたなんて言ったら嫌味だと思われる。
皆驚いたような顔をしている。今日は珍しくソディアもいて、彼女だけが、尊敬します、フレン会長!と言っている。



「そ、そういえばミョウジさんはどんな様子でしたか?」

「ナマエ、試験監督と揉めてましたわ」

「は!?」



今度は僕が驚く番だった。
一体何で揉めたんだ、試験監督と揉める生徒なんて聞いた事がない。



「終わった。次の科目の用紙を渡せ。もしくは仕事をやらせろ。って」

「試験監督に対して命令口調だと!?会長、やはりミョウジは風紀委員長に相応しくありません!」

「仕事はカンニングと間違われるかもしれないから、次の試験を渡したんですの。そしたらその日の教科全て終わってしまって…終わった。帰らせるか仕事をさせろって言っていましたわ」

「それが4日間続いて……1時間も教室に居ませんでした」

「俺、ナマエの頭欲しい」

「お前は馬鹿だからな」

「んだと?!」



試験監督に対して命令口調はどうかと思うけど…ミョウジさんって仕事人みたいだよね。仕事をさせろって。












「ユーリ、このクレープ味薄いね」

「それはお前の味覚がイカれてるからな」



エステリーゼ様の言う、クレープ屋を見つけて、それぞれ好みのものを食べている。

ユーリなんて2つも買って頬張っている。ホント甘いもの好きだな。


クレープ屋は移動式で、席は外にしかなかった。

僕は余り好きじゃないけど、長い列が出来ているから皆には好かれている事が見て分かる。



「今日はフレンに良いものを持ってきたんです!」

「良いもの、ですか?」

「はい!」



彼女の鞄から出てきたのは、ピンク色をした少し分厚いアルバム。
通りでテストなのに鞄が重そうなはずだ。



「以前、ナマエの小さい頃の写真を見たいって言ってましたよね」



あぁそれか。と思った刹那、隣に座っていたソディアが突如立ち上がって、あの人!と叫んだ。

ソディアの視線の先には、黒い服装をした長い髪の女性が歩いていた。高いヒールを履いていて、結構その人自身も高く見える。



「アレクセイ直属の奴がなんでこんな所歩いてんだよ」

「何か事件でもあるんじゃないかしら?」



アレクセイ理事長直属のあの人。名前は公表されていない。
理事長直属の人達は、謂わば警察と同じと思っていい。

確かガイが、風紀委員はその直属の人達の部下のような立場だと言っていた。
つまり、風紀委員は学校に加え、この学園全体の治安を日々守っている。そして直属の人達は、風紀委員では手に負えない事件を担当している。



だから、彼女が堂々とこんな所を歩いているというのは、危険なことが起こる前触れを表す。



「ねえ、あの宝石店おかしくない?シャッターに書かれている定休日でもないのに閉まってる」

「まさか宝石強盗!?」



宝石店と彼女の距離が徐々に縮むにつれて、ガイが腰を上げる。










ドガンッ!!と。机が、椅子が、人が爆破振動で揺れた。

リタが怪しいと言っていた宝石店のシャッターは爆破でぐちゃぐちゃに。そして、燃えている。
爆破音の後、すぐに3人組の男が店から出てきた。彼らが走って行く方向には彼女が居て。


ガイの避難誘導に従って、クレープ屋に集まっていた人も避難を始めた。



「女ァ!そこを退けぇ!」



3人のうちの小太りの男が、宝石店が爆発したにも関わらず歩いている彼女に殴りかかった。

彼女はそれを横に躱しながら、小太りの男の手首を捻って、小太りの男は地面に仰向けになった。
トドメの一撃、とでも言うようにヒールで小太りの男の腹を蹴る。

小太りの男は気絶した。



彼女の次の相手は長身の男。多分、彼女が出動した理由は彼にあるのだと思う。彼の手にある爆弾の袋に。





「そこの貴方!危険ですからこっちに!」

「娘が、娘がいないんです!」



こういう大変な時に限って、ハプニングは起こりやすい。


その母親には安全な場所に移動してもらって、居なくなった女の子を僕達で探す。


後ろでは、まだ彼女と爆弾男が交戦していて、なかなか攻める事が出来ないように見えた。
男の手には数々の爆弾とライター、お腹にはダイナマイトが巻かれていた。

爆弾が被弾したのだろう、あるテーブルが炎を纏っていた。






「こっち来い!」

「ママー!」



ユーリやガイ、ルーク、アッシュでもない男の声と、女の子の声が聞こえた。

そこには宝石強盗の3人組の最後の1人と、おそらく僕達が今必死になって探しているであろう女の子がその男に連れ去られようとしていた。
問題が1つ。男の手にはナイフが握られている。

周りを見ても、誰も気付いていない。
凄く真剣に女の子を探している。



体が勝手に動いた、と表現した方がいいかもしれない。

走って、女の子を宝石強盗から離した。宝石強盗は片手に盗んだ宝石を入れた麻袋を持っていたから、離すのは簡単だった。

人質にしようとしていた女の子を奪われたからか、僕が近づいたからか、宝石強盗は僕にナイフを振りかざした。



女の子を守るように、その子の顔を必死に胸に押しあてた。

今になって足が動かない。





本当に、避けられない。そう悟ったとき、誰かの手にナイフが刺さった。



「ひぃッ!」

「痛いけど我慢してね?」



あの人だ。

彼女は男の手を握ったまま、彼の頭に蹴りを入れた。男は彼女の手にナイフを差したまま気絶した。



「大丈夫?怪我、ない?」

「は、はい!」



あ、被った。初恋の女の子と。大丈夫?と聞く時の言い方、表情。
それに、髪と瞳の色が同じだ。優しそうな表情も。初恋の女の子は髪が長かったし、目の前にいる彼女も髪が長い、ロングだ。



彼女はナイフが刺さったままの手を背中に隠して、女の子にも同じ事を聞いている。
怖かったねー、と笑顔で女の子と話す彼女は強いけど優しそうだ。



「エステル!何やってるの!?」

「火傷しますわよ!」



ティアとナタリアの悲鳴にも近い声が聞こえた。

エステリーゼ様があの燃えているテーブルに近寄って、何かをしようとしている。


隣にいた彼女は既に走り出して、エステリーゼ様の腕を掴んだ。



「離してください!」

「私の仕事には怪我人を出さない事が含まれているから無理ね」

「あの中には!大切なアルバムがあるんです!今は話してくれない、嫌われてるかもしれない。だけど私はその幼馴染みが大好きなんです!彼女との少ない思い出があの中にあるんです。だから離して!!」

「それは…もうないのにね」

「!」



水をいっぱいに入れたバケツを持ったクレープ屋の店員がやってきて、それを燃えるテーブルに勢いよくかけた。
それでも所々火が残っていた。

アルバムは、外側の部分なら多少残っていたが、写真の入っていたであろう内側は完全になくなっていた。



「やっと着いたー。あー重」

「遅かったね、レイヴン」



レイヴン先生だ。彼の両手には僕の身長を軽く超える、白い刀が握られている。
それだけ長さがあれば凄く重いだろう。レイヴン先生は汗を流していて息も荒い。



「それは貴方の刀が長いし重いしオッサンが年寄りだからですよ。って何この空気」

「あそこの3人の後処理宜しくね」

「結局、この刀は要るの」

「要らない、……やっぱり要る」

「はぁ!?血、流れてる!かなりオッサン命の危機感じてるんだけど…」



あ、間違えた。とナイフで刺された自分の右手から血が流れているのに、呑気に言って、代わりに左手で刀を受け取った。

レイヴン先生はこの世の終わりのような顔をして頭を抱えている。



「夜にも仕事あるから。私行くね」

「へいへい」











「さてガイ君。オッサンと一緒に理事長の所へ行こうか」

「なんで俺が大の男2人も運ばないといけないんですか」

「オッサン年寄りだし!」



男2人を抱える、抱えさせられているガイに、レイヴン先生は輝かしい笑顔で答えた。

レイヴン先生も理事長直属の1人だから立場上、レイヴン先生の方が上だ。ガイは逆らえない。



2人を見送った後、即解散になった。





エステリーゼはずっと、外側しか残っていないアルバムを抱きしめ、泣いていた。










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