昨日落ち込んでいた自分はどこへやら。
今の自分はやる気に満ちている。


何故なら今日は定期テスト1週間前。今日からテスト最終日までの期間はテスト期間と呼ばれ、今日からそれが始まるからだ。


更に今回はあの憎き風紀委員長、ナマエ・ミョウジが参加する。
昨日のバスケのリベンジをする為に今回はいつも以上に燃えている。ユーリにはもしかしたら満点とるんじゃねえか?と言われた。
だけど、ここのテストは曲者だ。数学なんて時間内に解けないような問題が出るから、数学で満点を取った事はない。


そう、目の前で授業を教えている数学の教師から。


彼をじっと見ていると、目があった。彼は教科書を閉じて、僕を見つめ返した。



「フレン君には期待しているよ」

「ご期待に沿えるよう、頑張ります」

「そしてミョウジにぎゃふんと言わせよう!」

「ぎゃふん、ですか…」

「だってあいつ俺の授業受けてくれないんだよ!?ある日教師全員で聞いたんだ、どうして授業受けないんだ?って。なんて答えたと思う」

「理事長の許可はある、ですか?」

「それもあったけどさ、先生方が私に教えられる事は一切ありません。って!」



ミョウジさんはそんな事まで言ったのか。余程自分に自信があるんだろう。

中間テストだから計13教科。授業を全く受けていないミョウジさんに負けたくない。



そして……授業中なのに泣き出したこの数学教師をどうにかしてほしい。












結局、あの数学教師はチャイムが鳴るまで泣き続けた。
テスト期間なのになんて事を…!


今日は第一図書室で勉強しよう。S・Aクラス専用の第一図書室なら人も少ないから静かだろう。

そう思って図書室の扉を開けたら、思いもよらぬ先客がいた。そしてバッチリ目があった。



「どうしてここに…!」

「ちょっと読書をね」



ちょっと!?と思ってしまう程の本がミョウジさんの傍に詰まれている。1メートルくらい。
だいたい20冊ぐらいあるだろうか…これをちょっとで言えるなんてミョウジさんはおかしい。

本当に、あり得ない。



「テスト勉強?」

「君には関係ないだろう」

「安心して。片付けたら出ていくから」



相変わらず無表情。どうして僕達にだけ無表情なんだろう。他の人には笑いかけるのに。


ミョウジさんは椅子から立ち上がって、流れるように本を棚へ返していく。
普通、あれだけの量なら、これどこにあったっけ?ってなるのに彼女はならない。躊躇いがない。



「会長は、諦めないんだね」

「何を」

「いや、こっちの話」



ミョウジさんは最後に一番分厚い本を返して、扉のドアノブに手をかけた。
これで一人で勉強出来る。



「じゃ、頑張って」



こちらを向いてそう言ったミョウジさんは少し、微笑んでいた。


まさかあんな言葉をかけてくれるなんて、あんな表情を見せてくれるなんて…。



自然と頬が熱くなるのを感じた。

さっきの彼女の表情が一瞬だけ、初恋の女の子の表情と重なった。



パタン…と音を立てて閉まる扉で我に帰った。


ミョウジさんとあの女の子が同じなわけがない。

あの女の子の名前は知らないけど、凄く優しかった。たった2回しか会った事ないけど、いつもニコニコしていた。
対してミョウジさんは嫌味な事言うし、基本的に無表情だ。



うん、やっぱり違う。












うとうとする…………。

あぁ、いつの間にか寝てしまってたんだ。少しノートに皺がついている。
昨日まで剣道部と生徒会で忙しかったし、無理もないか。


横を見ると白い制服の女の子がいる。その人はじっと僕を見ていて。
白い制服、女子……。



「って、うわっ」

「寝てたね」



勉強するんじゃなかったの?と言うミョウジさんに言い返せない。


そういえば背中から何かが落ちた。何だろうと思って見れば、毛布だった。
まさか、ミョウジさんが…?



「そんな事じゃ私に勝てないよ?」

「な、勝ってみせる!」

「会長の成績、入試から全部見たけど数学はいつも満点取った事ないのに?」



どうして彼女はそんな事知ってるんだ。それに入試の点数まで知ってるなんて…エスパーか。


今頃だけど、何故ミョウジさんは首からタオルをかけて、髪が濡れてるんだろう。制服なのに。風呂上がり?
あ、シャンプーだろうか、良い香りがする。



「ねえ」

「……はっ、何?」

「数学、教えてあげようか?」

「誰が!」

「あら残念、会長が私に勝つ可能性はなくなったよ。いいの?私にぎゃふんと言わせるんじゃなかったの?」



ミョウジさんは本当にエスパーかもしれない。
Aクラスの人しか知らない、僕と数学の先生が話した内容を知っているなんてエスパーだよ。



「賭けをしようか。私が数学を教えて、会長が満点を取れなかったら毎日授業受けてあげる」

「もし、満点を取ったら?」

「見返りなしでいいよ。悪い話じゃないでしょ」



確かに、悪い話じゃない。
ミョウジさんが賭けに勝ったら僕は数学で満点を取れる。ミョウジさんが負けたら毎日彼女は授業を受けてくれる。



「その賭け、のるよ」

「じゃあテスト範囲の最初を開いて」



図書室の窓の外はもう真っ暗。壁に掛けられた時計の針は9時を指していた。寮の門限は23時。間に合う。





ミョウジさんの教え方は凄くわかりやすかった。あの数学教師とは比べ物にならないくらいに。すらすら頭に入ってくる。

授業で分からなかったところもミョウジさんのやり方なら分かった。




22時30分。思いの外、集中出来た。テスト範囲の半分まで終わった。



「「送っていくよ」」



被った。風紀委員長とはいえ、女の子だし、ここは男の僕が送っていくべきだろう。



「もしかして会長知らない?私、寮生活じゃなくて自分の家に住んでるの」

「まさかそれも理事長から許可もらってるとか?」

「うん、そうだよ」



どれだけ彼女は特別なんだ。アレクセイ理事長も彼女に甘過ぎる。
まあ、彼女が社長なのも関係しているだろうけど。






「どうして図書室に戻ってきていたんだ?」

「帰れないじゃない、私が」

「あ、風紀委員長は一番最後に学校を出ないといけないのか。すまない」

「別に」




そうしているうちに、男子寮前に着いた。
まだ門限じゃないから寮長も怒らないだろう。



「最後に教えた事、毎日とは言わないから2日に1回はやって、必ず満点だから。おやすみ」

「あの、今日は……ありがとう。あと毛布も」

「うん、勉強頑張って」



手を振ったら、ミョウジさんも振り返してくれた。そして、ふわりと笑った。

案外、ミョウジさんって良い人なのかもしれない。態度が違いすぎるのが気になるけど。



寮の玄関を開ければ、ユーリが壁に寄りかかっていた。



「随分遅かったな。俺が何回電話やメールしたと思ってんだ」

「え!?」



ポケットから携帯を取り出して確認してみた。ユーリ以外からも来ている。マナーモードにしていたから気付かなかった。



「で、何してたんだ?」

「勉強会?」

「なんで疑問形なんだよ」

「いや……あの…」

「まあいいけど、今のお前、良い顔してる」



登校前に服装をもう一度確認出来るように、と壁に付けられた鏡を見ると、嬉しそうな顔をした自分がいた。





ガイの言っていた事はやっぱり本当かもしれない。

今日はミョウジさんと沢山喋って、そう感じた。











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