*何故か吹雪が太平洋側にいる











「社会現象凄いね…!」

「金環日食だからね」



学校への道を歩いている最中。
喫茶店の前で日食レンズを覗いて太陽を見ているサラリーマン。自作の筒みたいなものを使って、地面に太陽の光を映している男の人。マンションのベランダからも太陽を観察している人がいた。

太平洋側で車を運転している人達以外の殆どの人が、こうして同じ空を見上げている事に感動してしまう。但し、私と隣にいる吹雪は空を見上げていない。



「吹雪、ちゃんと日焼け止め塗った?」

「塗ったよ」

「この時期が一番紫外線強いらしいのに、日食があるなんて酷いと思うの」

「顔あげるから、長時間見てると焼けるね」

「朝早くから人の家の前で近所のおばさん達は煩いし」

「人生で1回くらいしか見れないからだよ」



あ、信号が赤になった。そういえば、登校中の小学生が1人もいないな。学校側に「金環日食なので観測会をします。全員必ず×時迄に来ましょう」なんて言われたのかも。低血圧の小学生の皆さん、御愁傷様。

信号が青に変わって、横断歩道を歩く。
今日はちょっと曇っていて、肌に触る風が冷たくて気持ちいい。部分日食は見たことあるけど、金環日食の時はどうなるんだろう。明るさや暖かさは変わるのかな?


隣で歩きながら鞄を漁っている吹雪が心配になる。つまずいて倒れそうになっても、私助けれないよ?男女の体格差というものがあるんだから。



「名前ちゃん、止まって」

「ん」



微笑む吹雪の手には日食レンズ。鞄を漁っていた理由はそれか。というか吹雪、日食レンズ買ったんだ…。ある友達が1500円の日食レンズ買ったって言ってたから私は買わなかった。

日食レンズを目に翳す吹雪を見て、それを持っている人で華やかがない仮面舞踏会開けるよ、って思った私の思考は変だと思う。


徐々に辺りが暗くなっていって、まるで明け方のような明るさに。この明るさが神秘的に感じて、思わず東の方角を見る。



「名前ちゃん見て見て!太陽が!」



太陽を指差して子供みたいに笑っている吹雪につられて、私も太陽を見る。私の場合、肉眼で直射日光を。
吹雪が、金の環が!って言うのと同時に太陽から目を逸らす。凄く眩しかったけど、一瞬だけ見れた金の環。目がチカチカする……。



「名前ちゃんどうしたの?大丈夫?」

「肉眼で見たから目がチカチカするの」

「ワイルドだね」



肉眼で太陽を見た私はワイルドなのかどうかは分からないけど、俯いて目元を押さえている私を心配してくれた事に嬉しくなる。好きな人に心配されたら、誰だって嬉しいに違いない。

目のチカチカが治って、私の前に差し出されたのは日食レンズ。さっき吹雪が使っていたもの。



「これ使って」

「ありがと…」



早く早く!と急かされて、それを目に翳すと、白っぽい環が…。人生初の金環日食、見れて良かった……。
次見れるのは何十年も後。数年後には世界の何処かで日食が見られるかもしれないけど、そこまで行く行動力は私には無い。


人生初、人生最後かもしれない金環日食に感動していると、視界の端で吹雪の顔が近づいてくるのが見えた。
まさか一緒に見ようとしているのか。頬や耳に当たる吹雪の毛が擽ったくて、今にもにやけそうで困る。耐えられそうにないので、日食レンズを返そうと、それを目から離しかけた瞬間、頬に柔らかい感触が。

自惚れても、いい…?





 



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