明日は私の誕生日。といっても、誕生日まであと2分。


両親は夜勤で、家に居るのは私一人。だからこんな時間まで夜更かしできる。
いつもはもう寝てる時間だけど、ある事が気になるから、こうして起きている。それは誰が一番にお祝いのメールを送ってくるか。


あと1分で日付が変わる。

壁に掛けてあるちょっとオシャレな時計が奏でる規則的な音だけが、私の部屋に響く。
その音が私を更にわくわくさせて、思わず携帯を握る手に力が入る。



ベッドにうつ伏せになって、心の中で残り10秒のカウントダウン。





…3……2……1……


私が0を数えるのとほぼ同時に、私の耳に響いたのはメールの着信音。
ではなくて、来客を知らせるベルの音。


こんな夜遅くに一体誰?両親の筈がないし、もしかして…不審者?

階段を降りる足音や、廊下を歩く音をできる限り消して玄関まで行った。対不審者用の為にあるようなドアの覗き窓から外の人物を見ると、そこにはよく知る人物が若干不機嫌そうな顔をしていた。
急いでドアを開けると、遅い、と一言もらった。



「ごめん、不審者かと…」

「何の連絡もしないで来た俺も悪いか」

「で、こんな遅くに一体何用で…?」

「今すぐ出かける準備しろ」



理由は訊くな、そうユーリの顔に書いてあるように思えて、言われるがままに準備をして再びユーリの待つ玄関に行った。

自転車に跨っているユーリに従って、彼の後ろに座ると、目の前には月の光や電灯で煌めくユーリの長い髪があった。女の私ですら羨ましがる美しさ。
風呂はもう入ったのだろうか、シャンプーやトリートメントの良い匂いが私の鼻腔を掠める。



「ねぇ、重くない?」

「重いに決まってんだろ」

「…………」

「人間2人分なんだしよ」

「そうだね」





始めはゆっくりだった自転車のスピードは、今では速くなり、顔に風がよく当たる。暖かくなってきている時期とはいえ、夜の空気は冷たい。
容姿は女の人みたいに美しいのに、その背中はやっぱり男らしく広くて安心感を抱く。無意識のうちにその背中に擦り寄って、ユーリの体温が主に顔から伝わってくる。あぁ、暖かい。



緩やかな坂道をかなり走って着いたのは、家の近所の丘にある林。



「ナマエ、こっちだ」

「ユーリ…」

「何も出ねぇよ」

「えー」



暗いからか、来たことがないからか。この林から幽霊が出そうで怖い。
こういう霊的な所を嫌いなことをユーリは知っているはずなのに、ユーリは私を置いてその林に入っていく。
でも、こんな所に1人残されるのはもっと嫌で、必死にユーリのあとを追い掛ける。



道なき道を歩いていると、ユーリが手を握ってくれた。
ユーリの何気ない優しさが好きだ。時々分かりにくいのもあるけど、以前と比べて大分分かるようになった。



「絶景だろ」



林の中だというのに、何が絶景なんだろう。夜景は絶対に見えない。

そんな私を察してか、上だよと人差し指を空に向けてくれた。
周りは木ばかりで、葉と枝で覆われて空なんて殆ど見えない。否定的な私の考えはあっさり夜空に砕け散った。



「絶、景…」

「だろ?」

「うん!」



意外と私とユーリの真上には枝や葉が全くなかった。小さくてもプラネタリウムの精度以上に星達が見える空間は、とても神秘的だった…。
全方位を星に囲まれているわけじゃないけど、誕生日にこんな景色をユーリと見ているって考えると、ドキドキしてきた。



「朝起きたらまずメール見ろよ」

「え?なんで?」

「いいことあるぜ」

「今以上のいいこと?」

「あぁ」





その後、少し話をして、来た時と同じようにして帰った。

いつもより少し寝坊したけど、ユーリに言われた通りに携帯のディスプレイを見ると、新着メールが一件。ユーリからだ。






朝起きて一番初めに見たメールが1日を左右する
(メール見なきゃ良かった…)
(ユーリの顔まともに見れないよ)





真夜様お誕生日おめでとうございます!
今更ですみません…!
良かったら受け取ってください(*´∇`)
甘くないかと思いますが……
ああ、少女マンガ読みたい…





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