「ユーリ!」

「…ナマエ?」


深い紫苑を丸める彼。

パチパチと小さく闇の中で爆ぜる音。それを生み出している焚き火が、今この場で唯一の灯り。

冷たい風が通り抜ければ、赤いそれは揺らめいて。
同時に闇に溶けるようにいる、彼の長い髪を弄んでいった。





安息の場所





「ユーリ、もうとっくに交代の時間過ぎてるじゃない。何で起こしてくれないのよ」

「ナマエが気持ち良さそうに涎垂らして寝てたからな」

「え゙!?」



嘘だよ、と喉の奥で笑う彼。


街の外で日を跨ぐために、野営というのは仕方ないもので。
そうすると、当然見張り役というのも必要である。

ここ最近、野営が頻繁。
その度に見張り役を買って出るのが、ユーリだ。


彼は前線で戦い、一番に敵と対峙して、何度も私達を守ってくれる。

今回だって、遅くまで見張りをして、私の負担を減らそうとしていた。



「無理、しないでよ」

「……ナマエ…」



このままじゃ、限界が来るよ。



「もう少し、私を頼って。――…仲間、なんだからさ」


仲間。

私の中では、彼は仲間以前に思い人だけどね。
きっとこんなに心配するのも、そのせいだ。



「…ほら、だから今日はもう寝て。見張りなら私がやるから」


「……じゃあ、」


何やら考えでいた彼は、徐(おもむろ)に立ち上がる。
意図がわからず、目で追うだけの私の横に腰を下ろした。
え、なに?

一瞬、はたと視線がぶつかると、彼は笑った。
そして上半身を傾ぎ、


「え、はっ!?ゆ、ユーリ!」


膝を下ろしていた私のそれに、頭を預けたユーリの姿が。

俗に言う、膝枕。


下から注がれる視線のせいで、顔に熱が集中してしまう。

夜で良かった。今の私は、多分茹で蛸状態だ。



「なっなん、」


「甘えさせてくれるんだろ?」




紫苑を細めて、嬉しそうに微笑むユーリは…綺麗。男のくせに。
本当に嬉しそうな、子供みたいな笑顔を見て、私も何だか落ち着いた。

サラサラと流れて落ちる黒髪に、我知らず手を伸ばし、ゆっくり撫でた。


それ気持ち好いな、なんて溢す。


彼は手を伸ばして、私の頬に触れた。




「………ありがとな、ナマエ」


「…どういたしまして」




腕を下ろし、目を閉じて。暫くすれば聞こえてきた、規則的な吐息。

やっぱり疲れてたんだ。


指通りの良い黒に、もう一度触れた。







愛しき安息の場所





(ナマエがいるから、俺は強くいられる)
(守るために傍にいたのに)
(逆に守られてばかりで)
(だからこそ、自分の意志を貫けるんだ、と気付いた)







君の傍が、安らぎの地。








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