雪が降っている。

しんしん、と緩やかに落下して積もっていく白。
その上に小さな足跡を残しながら、子供達は笑い声を上げている。


積もるに至る雪が降っているという事は、それ相応に気温が低いのだ。


おかげで目を覚まして数時間経つというのに。未だベッドから出られないでいた。





寒さ対策法





「寒い寒い寒いっ!尋常じゃないんだけど、この寒さ!」


なんで子供はあんなに元気なんだろう。歳のせいかな?
…いや、私だってまだ二十と少ししか無い。うん。まだ若いはず。

重ねに重ねた布団を引っ張り上げて、首元まで持ってくる。
やっぱり人肌の温もりは気持ちいいな。


「おーい、ナマエ」

「ん?」


扉が前触れも無く開いた。現れたのはお隣に住まうユーリだ。

長く隣人をしているため、遠慮なんて言葉が見当たらない。私も彼も。


「ノックぐらいしなさいよ」


じと、と扉の前に立つ黒を睨み付ける。軽く握った拳で開いた扉を叩いた。
意味ないけどね。

てか、


「服着ろっ!」

「ちゃんと着てるじゃねーか」

「胸元を隠せ変態!」


春夏秋冬。年中無休。胸元を開けたファッションのユーリは、見ていて私が寒い。


「寒くないの?」

「さみーに決まってんだろ」


吐いた溜息は確かに白い。
ブーツの底を鳴らして接近したユーリは、私が転がるベッドの縁に腰を下ろした。
軋んだ音を立てて沈んだスプリングに、僅かに焦りを感じた。



「……お年頃の、恋人でもない男女がこの位置って…色々駄目じゃない?」

「なんだよ、襲って欲しいのか?」

「寄るなケダモノ!」



丸い布団の塊の隙間から右足を出して、黒い背に蹴を入れる。
温かな空間から外に出てしまえば、飛び出した足が一気に冷える。寒いっ。


役目を終えた足を引っ込もうとして、それは妨げられる。
ユーリの冷たい手が足首を掴んでいたのだ。


「ひゃあっ」

「――…、へぇ…」


何やら楽しげに口端を吊り上げるユーリと。
足を滑ったその手の感触に、ぞくり、と身震いをした。

足を辿って布団の隙間に侵入し、そのまま彼はベッドに全身を乗せる。
隙間を縫って入り込み、完全に布団の半分を占拠してしまった。

綺麗な顔が目の前に。


「あー。ナマエ、温かいな」

「ちょっ、な、なにやって…!てか、ユーリが冷たいだけ、っ!」


遠慮が無いにしても、これは遣り過ぎだ。
仮にも成人を過ぎた男女である。

温かなベストポジションをずらされて、寒いはずなのに。熱が顔に集中して、そんなの微塵も感じられない。


「お前も結構、可愛い反応するんだな」


もうダメだ。寒さが何だ。
これ以上の事に発展しそうな勢いだ。ここは逃げるべき!

嫌な笑みを浮かべる彼は、伸ばした両手で引寄せて、私が開けようとした距離をゼロに。
抱き締められた。



「逃げんなよ」


「…っ!!」


耳打ちするように。近距離で囁かれた言葉は、鼓膜だけでなく全身まで震わせた。

やっぱり胸元は隠して、ユーリ。
頬に肌がまともに当たって恥ずかしい。

そこから聞こえる鼓動は、少しだけ早い。


私はこれ以上に早いんだろうな。







傍迷惑な寒さ対策法。




(温かいなー、ナマエカイロは)
(何その腹立つ名称。ていうか、早く離せー!)
(俺のもんだから。離す気なんてねーよ)
(ユーリのカイロになんて成りたくないわよ!)
(…………鈍感め)








だったらこのまま、解るまで教えてやろうか?






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