必ずと言っても良い程、学校には人気のある人がいる。

広い層からの好感や友愛、尊敬。そして恋慕。
理由は様々だろうけど。


私の通う学校も、また然り。

透き通る金糸のような髪。澄んだ碧色の双眸。
背が高く、すらりとした体型。
成績も運動能力もトップクラスな上に、爽やかな好青年。

特に裏の無い優しく甘い言葉が、女子には効果抜群。


そんなガイ君に恋するのは、そう時間は掛からなかった。





大好きな温もりに






今年はとことん運の良い年かもしれない。
初詣で大吉を引くは、五千円くらいだけど宝くじが当たるは。

ガイ君と同じクラス――隣の席になるは。

彼は最後尾で端っこの席だから、必然的に隣は私だけ。
女子からどれだけ羨望の眼差しを受けたか…。


人当たりの良いガイ君は、私にも色々話し掛けてくれた。
嬉しくて、幸せで。彼に対する想いは募る一方。

でも、告白なんて大それた事を出来るだけの勇気はない。
それに今の関係が心地いい。この距離を壊したくない。


このままでも、十分幸せ。


―――

「ナマエ」

「あ、ガイ君」


優しく名を呼んだ声に振り返る。
大好きなその声を間違うことなんて無くて、思った通りのその人。


「大丈夫か?手伝うよ」

「いいよ、大丈夫」


学級委員である私。
丁度今、先生に頼まれてLHRで使う資料を抱えていた。たった一枚の紙でも、クラス全員のものとなると結構な重さになる。抱えられない程じゃないけれど。


けど、と言い淀むガイ君。やっぱり優しい人だな、と小さく笑ってしまった。
ちょっとした事も気に掛けてくれる彼。そういうところが、好きなんだなぁ。


「大した量じゃないもん。大丈夫だって」


声に出して笑って、再び足を前に出した――瞬間。


がくん、と落ちた視点。
踏み出した筈の前足が、地に着く感覚が皆無に等しく。

スローモーションとも思える時間の中で、確かに目にした眼下の光景。
ガイ君に話し掛けられて、浮かれていて。今自分が何処にいるか、なんて忘れていた。


階段。


丁度私は階段を下りるところだったんだ。

傾いだ身体。
これから持ち直せるような身体能力は無い。



「――ナマエ!!」


ガイ君の声が、強く私の名前を呼んだかと思えば。
腰に巻き付いた何かに引かれた。

次の瞬間に受けた衝撃は、少し前に覚悟していたそれとは全く異なる軽いものだった。

薄い物体が落ちる音。
誰かの笑い声。足音。
それらが全部、遠くの方で聞こえる。

反射的に瞑っていた瞼を恐る恐る開く。
数歩奥にある段差や、下に広がる白が見えた。


現状が掴めず唖然としていたが、誰かが吐いた震える息を耳の傍で感じて、どきり、とした。


「…よかった……」

背中に触れる熱と、腰に巻き付く熱が増す。


「ガイ、君?」


普段なら応えてくれる彼なのに。返事の変わりに、解いた逞しい腕が、私を向き直らせた。
正面には、憧れているその人がいる。

青い綺麗な瞳が、私を映して。
もう一度強く抱き締められた。


「が、ガイ君…!」

「君が無事でよかった。本当に…」


僅かに震えている声。心から心配してくれたみたいで、涙が出るくらい嬉しかった。


「あ…ありがとう」

自然と口に出していたお礼。肩に手を添えたまま身体を離したガイ君は、素敵な笑顔を見せた。

そういえば、

「触ってても、大丈夫なの…?」

「え?…あっ!」


女性恐怖症という、自分の体質を忘れるほど必死だったんだ。
今、唯一触れていた手が強張る。

しかし。離れてしまう、と思っていた筈の熱は、予想を外れて変わらず在るまま。

あれ?



「不謹慎かもしれないが、やっとナマエに触れられた。ずっと触れたかったんだ。…だから、」


――暫くこのままでいいか?


答える暇を与えられぬまま、私はもう一度。







大好きな温もりに
包まれた。



(そっ、それって、……自惚れていいの…?)
(はっきり言わないとダメか?)
(あ!えっと…その、)
(ナマエが好きだ)
(…っ!私も、ガイ君が好き!)





君から貰った温もりは、とても心地好かった。







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