久し振りの宿でそれぞれ一人部屋なのは嬉しい。最近は野宿の連続でよく寝違えた。
それに、ルークとアニスの煩い寝言から解放されると思うと、今自分の下にあるベッドが楽園に見える。

今は自由兼買い出しの時間で、買い出しにはルークとティア、アニス、ナタリアが行っている。
無駄遣いしそうな王族が2人居るが、守銭奴の怖いアニスが居るから大丈夫だろう。
ジェイドは難しい本でも読んでいるんだと思う。例えば、古代語の訳し方についてだとか。
ガイは多分、大好きな音機関でも弄っているんじゃないかな。

1人で居るのも寂しいから、この前買った読みかけの小説を手に取り、ガイの居る部屋へ向かう。


コンコンッ、とドアをノックして、ガイの返事を待つと、少し遅れて返ってきた。
ゆっくりとドアを開けて入ると、床が細々した音機関の部品でほとんど埋め尽くされていた。それらを蹴らない様にして、ベッドに腰を降ろす。


「ガイも買い出し、行かなくて良かったの?」

「あぁ」


返ってきたのは生返事。
ベルケンドやシェリダンと比べて大して音機関が発達していないが、この街で音機関の部品を買っておくべきだと思う。
夜になって、あの部品が無いっ!とか言っても遅い。買い出しに行けるのは今だけだから。


「何作ってるの?」

「…………」

「部品、足りてる?」

「…………」


音機関の話で会話を広げようとするが、返事が無い。
ガイは私に背を向けて音機関を弄っているから表情は分からないけど、微かに鼻歌が聞こえるから怒ってはいないようだった。大方、自分の世界に入っていて、私の声が聞こえていないのだろう。


ガイと会話は出来ないから、ベッドに横たわる。持って来た小説を開き、昨日の続きから読む。

この小説は恋愛小説で、今読んでいる所は、2人の男女が数々の苦難を乗り越えて、やっと2人が付き合い始めた場面。
心の中で2人を祝いながら、次の章へと進む。そこでは、恋人らしい日々が送られていた。

最初は羨ましいな、って思っていたけど、段々自分とガイの関係が不安になってきた。
私とガイは恋人。もう付き合って半年になる。だけど、何の進展もない。キスもなければ、手を繋いだ事もない。


隣でガイが、出来た!と歓声をあげて幸せそうにしている。
小説を持つ手が震え、開いているページにはぽつぽつと染みが増えていく。


「ナマエ?」

「ん?」

「怒っているような、泣いているような…凄い顔してるぞ?」


そう言うガイは私から目を逸らして、頬を掻いている。

袖で眼の辺りを拭いてみると、そこが濡れていた。
自分が泣いている事に気付き、急いで枕に顔を沈めて笑えるように頬を揉む。


「怒ってないよ……って」


今出来る限りの笑顔でガイを見ると、いつの間にかガイの手には私が読んでいた小説が握られていた。ガイはそれを読んでいて、取り返そうと手を伸ばすが、華麗に躱された。


「目、腫れてる」

「え?」

「ごめんな…構ってやれなくて」


ガイの手が私の頬にそっと触れ、ガイの顔がゆっくりと近づいてくる。余りにも近くて眼を閉じると、瞼に温かいものが触れた。
片目で確認すると、ぼやけて鮮明には見えないが、ガイが私の瞼にキスをしているのが分かった。


「この小説に出てくる2人みたいに、普通の恋人がする事をやりたかったんだろ?」

「…………」


返す言葉がない。今は預言とかレプリカの事で忙しいのに、小説に出てくる2人が羨ましくてガイにされてみたかった…。なんて言えるわけがない。

そんな私を見て、図星か、と漏らすガイに反論したかったけど、ベッドから引き摺り下ろされ、ガイの膝の上に乗せられた。


「ナマエは素直じゃないな」

「素直だよ」

「じゃあ今の顔、見せられるよな?」

「……無理です」


ガイに顔を見られたくなくて、彼の胸に顔を埋めてこう言ってやった………



偶にでもいいから構ってくれないと、何処かに行っちゃうから





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