06


「これがごはんのにおい・・・」

身体が言うこときかないと清光が初めての空腹感に耐えられずお腹を抱えてうずくまる。
それはそうだ、縁側でお腹の虫を鳴らせて20分は経っている。
折れちゃうのかな、なんて縁起の悪いぼやきが聞こえたけれどつまみ食いさせてあげられるようなものもないし、競歩の如く広間までお盆を運んだ。

「広間、いくよ」
「・・・うう」

厨と広間を往復して、隅っこにいた彼の手を絡めて引っ張り上げると案外簡単に立ち上がる。勢い余ってよろけたのはこちらの方だった。



「つなまよおいしい!ゆかりも可愛いしすき!」

作り甲斐のある反応があって安堵する。
おみそ汁ができあがった頃にごはんも炊き上がり、ツナマヨおにぎりとゆかりを混ぜ込んだおにぎりを作った。
おみそ汁を作る片手間でこんのすけへ油揚げを用意したので2人と1匹で食卓を囲む。

「前まで見てるだけだったのがもったいないって思えてきた」
「でも、清光は好き嫌いが多そう」

隣でそーかなーと見たことのある食べ物を思い浮かべてその味を想像しているようだった。
そもそも何故丸いちゃぶ台でわざわざ隣り合い座っているかというと、広間まで引っ張ってきて座らせ自然の流れで自らも対面するよう座ろうとしたところとなりがいいと言われたからだ。
飲食店で4人掛けのテーブルに通されたにも関わらず横並びするカップルをごく稀に見かける。それと同じだが、今いるのはこんのすけだけで他の目を気にすることもないしと清光の甘えに応じた。







昼食の洗い物が片付いた頃、清光は時折目蓋を擦る。

先程は何年も前から生きていると鼻高さんだったけどこれでは大きな赤ちゃんみたいだなとつい口元が綻んでしまう。

食べてからすぐに眠るのはよくないし庭でもひとまわりして、それでも眠かったらお布団を敷いてあげようと決めた。
無意識なのかまた目蓋に手をやる清光に濡れた布巾を手渡し、広間へ行ってちゃぶ台を軽く拭いてくるようにお願いし向かわせた。
その間こんのすけに布団一式は何処にあるのかと尋ねようとしたが、この彼なんと厨で船を漕いでいるではないか。思わず二度見してしまった。

濡れた手を拭い、彼をそっと撫でる。するとじゅるっと音を立てて勢いよく目を開けた。

「す、すみません」
「えっ、いいよ。そういうときあるよね」

政府が100%ホワイトとは信じていないが、いや世の中ブラックだらけだしこの狐も馬車馬のように働かされているのだろうか。それとも個体差の問題なのか・・・。
そういえばこのこんのすけはイメージより少しコンパクトかもしれない。

「そうだ、お布団って何処にあるんだろう?清光も眠そうだから、把握しておきたくて」
「広間の隣にございます」





「・・・・・・遅い」

清光が広間から戻ってこない。

「様子を見て参りましょうか?」
「ううん、行こ」

厨と広間の行き来で迷うことはいくらなんでも考えられないので、お手洗いに行って迷ってしまったというなら一理ある。
けれどここはうんざりするほどの静寂さだ、トラブル発生時に大きな声を出せば気付きそうである。
したがって、最も可能性が高いのは・・・・・・

寝てしまったか。

忍びの如く出来るだけ音を立てずに広間を覗くと、清光が布巾を握りちゃぶ台に突っ伏した状態から微動だにしない。

「・・・どーしよう」

このまま寝かせておく、いや・・・このままお布団へ移動させるか。それとも肩を揺すり起こすか。
究極の選択であったがさほど時間を取らないうちに隣の部屋まで行った。

お布団を出来る限り彼に寄せて敷き、その上で背後から脇に腕を通し胸の前で組む。
上体をゆっくり倒すにつれ首に触れるなめらかな艶髪からは、まだお風呂を知らないはずだが仄かに良い香りがした。
そして線が細く見えるけれど胸元や腕は男の子そのもの。いつか血に染まる姿を目の当たりにするんだぞと警告された気分にもなった。

うまい具合に頭が枕へあたる位置で寝かせることができ、そっと脇から腕を抜く。
掛け布団はいらないと思うけれど何か掛けてあげたくてもやもやするので、玄関に置き去りだったスーツケースからお気に入りのブランケットを引っ張り出してかけてあけてあげることとした。

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