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ある程度の手入れが済んだけれど、一箇所だけいくら手入れしても出血が止まらない。

先に元通りとなった紗綾形の着物には丸く、少しずつ円を大きくさせて染み込む三日月の血がまるで解けない呪印のよう。

なんで、なんでだと困惑するわたしを見て長谷部はみんなと共に見守っていた薬研の名を呼ぶ。

「よし大将、少し交代だ。目を閉じていてもいい」
「・・・やげん?」

薬研はわたしの頭をひと撫でし、横たわる三日月の前に屈んだ。そして自身の刃で三日月の着物を切り裂き、直接肌が見える状態にした。

着物に丸く円を作っていたもとがあらわになる。薬研はそこに躊躇なく鋏を入れ込む。彼が予め気遣ってくれていた通り直視できぬ光景ではあった。

穴から血が溢れ出ると同時に三日月が息を吹き返したようだ。しかし彼は激しくむせ込み、吐血した。薬研に場所を譲り三日月の頭側に移動してたわたしの膝元が更に赤く染まる。

「三日月!」
「・・・すまない、主よ」

鉛でも付けられているかのような動きをする彼の手がその膝元へ触れ、わたしはその手に自分の指を絡めた。

「帰って、来られたのだな」

まだゼエゼエと苦しそうに言葉を紡ぐ三日月は口元を鮮血で汚しながらも笑む。

時折、薬研の刃先の動きに合わせて三日月の指先に力が入る。刀を握るものの指先はいくら細く見えたとしても相当な握力だ。それがあまりに強く思い切り顔を歪めてしまっているかもしれないが、手放すことはしたくなかった。

「取れた。大将、これで手入れできるはずだぜ」

薬研が手のひらに乗せていたのは鉄の塊。銃弾だ。・・・それが体内に残っていたため、なおるものもなおらなかったんだ。
自分の成せることを終えた薬研と交代し、異物のあった傷口へ改めて力を注ぐと瞬く間になおっていった。


怪我はなおったけれど疲弊している三日月を、手の空いたものに手入れ部屋まで運んでもらうことにした。
少し彼についていたい、そう思い立ち上がろうとしたがどうも無理そうだ。だから運ばれるのをぼーっと眺めていた。
すると緋い瞳に視界を塞がれる。

「大丈夫?ほら、せーの」
「・・・・・・」

両脇に腕を通され立ち上がらせてくれた。案の定立ちくらみがして目の前は真っ暗になった。けれど清光がしっかりと支えてくれたから、というより抱きしめられていたからひっくり返るような心配は無用だった。

「がんばってたね、主」
「・・・見てたの?清光」
「んー、まあね」

立ちくらみでふわふわする感覚の中、背中をポンポンされるのが心地よかった。


少しそのまま清光に身体を預けていたら、だんだんと自力で地に足をつけていられるようになった。

「あっ、清光わたし血が・・・!」

三日月の血がたくさんついているのを思い出し慌てて彼と距離を取ろうと軽く押してしまった。
男女、刀と人。どちらか、もしくは両方ともいえる差故にわたしたちに隙間が空くことはなかった。

「これで主のジャージを借りられるね」
「もう、ちゃっかりしてるなあ清光」

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