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安定にあげた包み紙は模様が10個あるだけでなく、なんと大吉とも書かれていた。それが判明したのは笑い合ってちょっとしてから。初めてお目にかかったレア中のレアにわたしは興奮気味であり、一方の安定はそんなに?と言いながら包み紙のシワを伸ばしていた。

「今日のお昼は江かあ」
「そうそう」
「ってことはレバーだ?」
「すごい、当たってる」

長いことここに居る安定はわたしに好きな食べ物を聞いてくる。いちばんは何かと聞かれた訳じゃないので、思い浮かんだ順にいくつもあげてみた。横文字の物でも通じ、あーあれねとか僕も好きだとかテンポよく相槌が入る。

「安定がいちばん好きなのは?」
「決められないよ。でも今いちばん食べたいものはオムライスかな」
「オムライス?普通に出そうだけど」
「いやいや、本丸の全員を包むとか大変だよ。僕も担当したくない」
「確かに」

なかなか食べられないから。そういった理由で食べたいものがオムライス。出陣や演練で最も人が少ない昼食を狙い、またわたしも手伝うとしたら献立に取り入れてもらえるだろうか。そう考え込んでいたら清光がシャワーから戻ってきた。

「おかえり」
「ただいまー。なんか盛り上がってたみたいだけど何の話?」

オムライスの話を、そう口にしたのだが安定に何でもないと被される。うまく聞き取れなかった清光は濡れた髪をタオルドライしながら首を傾げた。
わたしも遅れをとって首を傾げるが、安定はお腹空いたときに食べ物の話は酷だからと言って暗澹とする。

「そんなお腹減ってるの?それなら長曽祢さんたちと先食べててもいいのにさ。まあ待っててくれてありがと」

シャワーでさっぱりしてきた清光はご機嫌で、安定へのお礼を口にしながらドライヤーをかけに行った。
一方の安定はというと、わたしの視線が気になって仕方がないのか清光を追っていく。

「失礼いたします。主、何かお手伝いできることはございますか?」
「長谷部、もうごはん食べたの?」
「ええ。江のものがすぐ食べられるよう用意してくれておりましたので」
「そうなんだ!」

でももっとゆっくりしたらいいのに、と言葉をかけつつも既に指示待ちの彼へ頼みたいことを考える。

「うーん、あ!今朝わたしの健康診断について通達がきてたの。それ聞いてもらいたいかな」
「かしこまりました」


健康診断の他にも、いくつか仕事の話をした。
いずれもスムーズに済み、長谷部は他にも何かあれば何なりとなどと言ってくれた。
なので先日の出陣先で個人的な勉強不足によりよく把握していない歴史人物がおり、彼について教えてもらうことにした。
長谷部は前代の審神者が愛読していたらしい戦国時代の歴史書を本棚から1冊抜き取る。

「確かに彼に関しての記録は少ないですね」

その書籍上でもあまり語られることのなかった詳細なき人物の名。彼はどんな人だったのか、実は無性に気になっていたのだ。
何度も時空を超えてきた長谷部はよく知っているようで、少しでも関連する出来事のページを開きながらとてもわかりやすく彼の正しい歴史を教えてくれる。

・・・正しい歴史、か。

漠然とし過ぎているそれを、わたしはこれからも直接すべて知る術がないのだろう。
ただそうにも関わらず朧げに守りたいとただただ願い、実際に歴史の狭間へ飛び込ませているのは彼ら刀剣男士。

「なるほど!いい人だね」
「歴史改変を目論む敵からすればまさにかっこうの的。今後も幾度となくこの時代に出陣することでしょう」
「・・・そっか」

語り継がれる逸話も、誰にも語られることのなかった真実も。全部大切にしたい。守りたいな。

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