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松井江に鉄分に特化した献立はすごかった。
みんな曰く、彼が食事を担当すればいつもこんな感じとのこと。
レバーの竜田揚げに関しては、下処理が丁寧にされていたためか全く癖がなく食べやすかった。今剣や粟田口の短刀たちにも好評でおかわりをしていた。

そんなお昼を過ごし、13時半頃には遠征部隊が帰還した。
いちばんに顔を見せたのは部隊長である長谷部で、彼に続いてやってきたのが和泉守と堀川。更にすぐ後ろには長曽祢がいる。

「只今戻りました」
「ただいま主さん」

デスクワークを投げ出し、おかえりなさいと彼らの傍らへ駆け寄る。しかし戻ったのは6振り中4振りで、清光と安定がいなかった。
小首を傾げるわたしにすぐに来ると思いますが、と心配無用であることを告げる長谷部。

「ただいまー、主」
「ただいまくるみ」

彼の言う通りふたりは遅れて執務室へやってきた。単に清光がブーツを脱ぐのに手間取っただけらしく、わたしは胸を撫で下ろす。


清光にとって初めての任務は問題なく帰ってくることができた。早速長谷部中心に報告を済ませてもらい、大きな一歩を共に歩んでくれた仲間たちに深々と頭を下げる。
遠征ごときで大袈裟な、と言う和泉守に堀川が諌める。
確かに彼の言う通りなのだが、遠征だって時間遡行軍や検非違使の襲撃される可能性もゼロではない。またその類の敵のみだけではなく、その時代を生きる人々から敵視されることだって考えられるのだ。
検非違使に関しては活発になっているとの報告もされており、実際に我が本丸も遭遇してしまったのだから。

長谷部は今日の様子を踏まえ、明日からは新選組のものたちだけでなく他のみんなと積極的に関われるようスケジューリングをしてくれるそうだ。
新選組は別行動であることに一瞬寂しげな表情を見せた清光だが、長谷部がしっかり自分を見てくれているのは素直に喜んでよろしくと目元を綻ばせる。

「んじゃ、報告はこれでいいな。あー腹減った!着替えは後回しでこのまま厨直行だ」
「もう兼さんてば!せめて手洗いうがいはしてから厨だよっ」

無事報告が済むと真っ先に口を開いたのは和泉守。空腹を理由に挨拶もそこそこに部屋を出ていく。もちろん堀川もそれに続き、長曽祢に関しては着替えてから厨に向かう旨をふたりに告げる。そして彼は大きな手をわたしの頭に乗せ、適度に休憩を挟みながら励むよう言ってくれた。
その言葉に長谷部もそうですよ主と首肯する。

「主、いつでもこの長谷部をお呼びください。何でもいたします」
「長谷部・・・、いつもありがと長谷部。今日も本当に素晴らしい判断をしてくれた。もしわたしの独断だけだったらいつまでも清光は外に出してあげられなかったと思う」

改めて長谷部の存在に救われているという想いで胸いっぱいになり、それを誰よりも真っ直ぐな淡い紫の瞳へ口にすれば段々と視界がぼやけてきた。それと同時にソファーに座ったままの安定からヤジが飛ぶ。

「あーあ、長谷部が泣かせたー」
「だ、黙れ・・・!」

長谷部と安定が軽く口論を繰り広げる中、わたしと傍らに清光がやってきた。
彼は無言で椅子の肘掛けに腰を下ろし、目尻にティッシュが優しく当てられる。緋い瞳は何を考えているかよくわからず、されるがままでいた。

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