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「清光、寝ちゃったの?」

灯りが消え静寂に包まれる本丸の中で、最小限に声を絞り尋ねるが相手からの応答はない。

いつまで脱線話を続けるのかとため息をつかれ、僕は反省を兼ねしばしだんまりを決め込んでいた。
そして改めて清光に声をかければ清光はもう仰向けになって目を閉じているではないか。

今度ばかりは僕がため息をつく。

でも、経験が浅いのにも関わらず加州清光という存在は根本的に芯が通っており僕の気持ちもすぐにわかってしまう。だから強いなって感心したばかりだけど、やっぱり清光って気まぐれでただ少しばかり僕より要領がいいだけなのかも。

真っ赤な瞳のつり目は見えないまま。
代わりにふかふかの掛け布団が規則正しく上下するところを見ながら、清光が確かに居ることを実感しなんだか心がじんわりとあたたかくなる。

「・・・そこにいてくれるだけで十分」

僕も視線を天井に戻したのち、少し腫れぼったいまぶたをゆっくりと下ろした。

「ひとりごと?それとも寝言?」
「・・・何、狸寝入りは意地が悪い」

もう、せっかく時期眠りにつけそうだったのに。
行儀よく横たわる声の主をひと睨みするが、まぶたは閉じられたまま。体も顔もみんな天井を向いたままだ。清光の方こそ今のが寝言かのよう。

「難しいことは考えず、全身の力を抜いて、目蓋もそっと閉じて、ゆっくり呼吸を。ってね」
「なにそれ」
「初めて夜を迎えたとき、主が言ってた台詞」
「へえー、初めて眠ったときか。懐かしいなあ。それで?くるみはそのあと何て?」
「寝ちゃった」
「は?」
「眠れなくて困ってる俺を置いてひとり先に寝ちゃったの」
「ははっ、くるみらしいや」
「そのとき俺も思ったよ。そこに居てくれるだけでいいやーってね」
「・・・そっか。そうだよね」
「だからごちゃごちゃ考えてないで早く寝ないと。明日もたっぷり鍛錬に付き合ってもらわないと強くなれないからね」
「はいはい、明日も手加減なんかしてあげないからな」

当然、と返す清光の赤い目が月明かりの僅かな光を帯びて見えた。
そしてお互いに改めておやすみと声を変え合い、今度こそすっと穴へ落ちたように眠ることができた。





身体がふわふわと軽く、見覚えのある屯所の一室にいたためすぐにこれは夢だとわかった。
庭先から砂利の音がして振り向けばそこには沖田くんの姿があって、久しぶりの沖田くんに胸が高鳴る。
僕は沖田くんを物陰から様子を窺う。

ああ、顔色がとってもいい。元気そうだ。
それに今腰にあるのは僕だったので、それもまた感慨深い。

夢でも流石に見つからない方がいい。そう思うのにいつまでも目が離せなくて参ったな。
僕はどう行動しようか考えようと手を口もとに持っていこうとする。すると肘に何かが当たってそちらに目線を動かす。

清光がいた。なんだ、清光と共に出陣だったのか。
ほっとして再度庭先へ視線を戻すが、沖田くんの奥にある木の影にも清光がいて僕に目で何かを訴えている。

だって、清光は僕の傍らに居るし。庭先のは他の本丸の清光だろうか。いや、逆・・・? ふたりの違いがわからない。どちらがむしろどちらも他の本丸の清光かもしれない。

自分の鼓動がうるさいほど聞こえて、くらくらとめまいがしてきた。なんだよこれ、どうなってるんだろう。



「・・・だ、安定。起きろー」

清光の声? まさか3振り目の登場?
夢だとしてももう勘弁してほしい。闇の中でそう嘆いていると眼球にちょっとした感覚があり、突如清光の顔が至近距離に現れた。

「うわ!?・・・って、もう朝か」

どうやらいつまでも寝こけている僕に痺れを切らした清光は、両の人差し指と中指を使って僕の目蓋をそれぞれ強制的に開けたらしい。
僕は後から遅れてやってきた朝日の眩しさに目もとを覆い、それからゆっくりと伸びをする。

「あれ、寝てた割に顔色悪くない?」
「そう?」
「主の心配もいいけど、自分の体調も気をつけてよね」
「別に何ともないよ?清光はあれからすぐ眠れた?」
「寝たよ。まあでもいっかいお前が寝言で俺のこと呼んだから起きちゃってトイレには行った。あとその足で主の寝顔も見てきた」
「くるみ大丈夫そう?」
「うん、よーく寝てた!」

冷静装ってるけど清光もやっぱりくるみが心配で仕方ないんだ。

髪を結い上げるとき丈長が切れたり、歯磨き粉が空気と一緒に出てきて服に飛んだり朝からちょっと不穏だった。

「ね、今日やっぱヘンだよ」

歯磨き粉をごしごし拭き取ろうとする僕に、清光が真剣での鍛錬はやめておこうと眉を下げて言う。

「いやそんな、平気だよ」
「んー、実は俺も寝不足だし。何より主も病み上がりで無理させない方がいいし」

確かに厠へ行ったりくるみの様子を見に行ったりとしていたのなら睡眠時間はやや少なく、睡眠の質もいいとは言えないだろう。くるみの病み上がりに関してもごもっともだ。

ここは大人しくわかったと答え首を縦に振る。

すると清光がにっこりと笑む。その笑みに、ああこれ・・・前の清光みたいだ。そう思った。

顔も声も一緒だけど。
やっぱり同じではない、かな。

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