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継承されて4日目の夜、くるみは重傷を含む複数名の手入れを終えた途端に気を失ってしまった。
すぐ様ベッドに運ばれ数時間したらゆっくりと目を覚まして食事も少し摂れたし、本人ももう何ともないよと縋り付く僕の背中をぽんぽんとして安心させてくれた。

けれど自室に戻り床に就いたものの一向に眠れやしない。そんな僕の様子を、傍らの真っ赤な瞳が薄暗い中で静かに窺っている。

「・・・沖田くんと、前の主はさ。重なってみえたことなかったのに。くるみは重なって見えちゃうんだ」

僕が話し出すのをじっと待っていた清光に甘えて僕はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
清光は横向きになったまま頬杖をついていて、当たり障りのない声色で話の続きを促す。

うちの短刀たちと一緒になって笑ってる姿と、壬生のお寺で子どもと無邪気に駆け回っていたあの姿。白くて細い手首とか、童顔なところ。たったこの数日で思い当たる節はこれ以外にもいくつもあった。

「さっきの、真っ青になってまわりの者に軽々と運ばれるところなんて恐ろしいほどぴたりと重なったよ。だから大丈夫って言われても信じてあげられなくて」
「安定・・・?」
「・・・あ。そっか、清光はまだ池田屋までの記憶だけだ。僕も最近沖田くん会えてないけどさ、こうして人の身を得てからもう何度も会ったよ。それこそ池田屋もあれば多摩にいる頃の沖田くんにも会ったよ」
「新選組結成前、かー。そんなところにまで出陣するんだね」

まだ時を遡ったことのない清光は僕の言う沖田くんや新選組のことを思い浮かべては複雑な顔をしている。
でも、複雑なのはこうして50年経っても変わらないものなんだ清光。本丸のみんな各々がこれからもずっとその複雑な想いを抱き続けながら過去へ飛ぶ。

「敵の目的によっては生きていちゃいけない人を斬るときもある。人じゃなくても、刀でも。それが清光だったこともあったな・・・。けどそのときは前の清光が一緒だったから任務だと割り切った」
「・・・・・・」
「これから清光にもそんな日々がやってくる。ねえ、もしも池田屋でお前を折らせないようにする敵が居たらちゃんと任務を果たせる?」
「当然。斬るし、なんなら俺自身で折るしかないんじゃない?」

「その敵が、僕だったら?」

「・・・敵は敵でしょ。おなじ。もー、いつまでこんな話すんの?あの人の最期とくるみが重なって見えちゃって眠れそうにないーって話じゃなかったの?」
「うう、そうだけど」

清光はいつだって僕より強いな。
僕はいまだに時折考えてしまうというのに。

あのときこうであれば、そんな風に考えるのは自由だ。でも絶対に実行しちゃいけない。

たとえ主を守るための物が人の身を得て時を遡ることができても、歴史はあるがままに。

沖田くんとの大切な物語は変えさせない。

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