05


ふたりしてひとしきり泣き涙を拭ったあと、身だしなみチェックする清光は実に清光らしかった。

見ないで、と恥ずかしげの小声で言われるけれど微笑ましくてそのお願いはきけない。
手持ちか初任給で手鏡を買ってあげたいな、噂の万屋にあるだろうか?なければ通販かな?なんてこれからの関係に胸を膨らませる。

気が済んだ彼はスマホを返す際、カメラ機能からホームに戻りディスプレイを黒にしてくれた。
率直に賛辞を贈れば何年生きてると思うの、と言われなかなかのパワーワードで面食らっていると何かが鳴った。
それは確かに清光の方から。本人もそれ自体にはわかっているようで腹部に手を当てながら首を傾げている。

「・・・?」
「おなかすいた?」
「かな?よくわかんないけど」

かつての主らと共にしてきた中でお腹が減ったら食事し、それがだいたい1日3回という認識はあるだろう。
しかし人の身に慣れていない彼は感覚がわからないのだから空腹を知らなくて当然だ。

「くるみさま、希望された品々は厨に届いております」
「ありがとう。お昼ごはんにしようか」

先の件に口を挟まず、見守っていた・・・と思いたいこんのすけがわたしの返答をきいて尻尾を揺らし身を翻す。

嫌なほど静寂が響いていた本丸は嘘みたいで、お盆を手に立ち上がる際ふと天を仰げば偽物のくせに太陽が真上に移動していた。
今度は本物の陽だまりの中でお茶がしたい。清光は日焼けを気にするのかな。


厨に戻る最中、自分たちでごはん作るのかーと素朴な声があった。
そうか、新選組はお世話してくれていた人がいたりとあまり厨へ用事がなかったのかもしれない。
彼らの幕末に限らず、刀を振るう偉人たちがどのような食事をしてきたのかなんて今まで気にしたことがなかった。時代劇でちらと食事するシーンなどはあっても、それがどのように作られているのかというコアなものは絶対にない。
これまでの研修期間にもこのような項目もなく、まさか初期刀を顕現させた者が今さら座学に舞い戻ることは考えられないだろう。
つまり今、身をもって学べということ。

厨に辿り着いたところで数歩前のボリュームある尾が嫌な気でも感じとったのか静電気を発したように逆だち、慣れてきたばかりの凛とした瞳が右往左往する。


念のため発注票を確認し、まずは無洗米と適量の飲料水を炊飯器に入れ早炊きのボタンを押すなどある程度の優先度をつけて調理に取り掛かった。

聴き慣れない機械音に些か愕然としたり開けた冷蔵庫から冷気が流れてきたのか身震いをしたりする清光にちょっと笑ってしまいながら、宿泊を伴う本日の研修に備えて提出を求められた計画表のことを思い起こす。

任務的には初期刀を顕現させることが第一で、それを達成させられるまでどのくらい要するかは個人差があると事前説明を受けた。
指1本でも触れれば良い者、予め霊力を込めた和紙札を用いる者、身を清める者、長時間力を注ぐ必要のある者。そして、任務達成には至らず縁がなかったと告げられる者。
わたしは身を清めるということはしたことないし正直よくわからない。
和紙札は数枚配布があったけれど、これがなかなか高価な消耗品らしい。今はくしゃくしゃになったり汚してしわぬようスーツケースで保管している。ちなみに呼ぶモノによってはそれを嫌い、直接の力でないと応えない場合もあるとのことだった。

とにかく、第一関門突破を前提にのちの任務が決められている。しかし初期刀に人の身を慣れさせよ、いうざっくりとしたものだった。
それに対しての計画表は、己のことだから顕現に長時間を使うと見込んで昼食をとらないかあるいはとても簡単なメニューにしておいた。
その昼食に始まり夕食と明くる日の朝食の3度の食事を基盤にした計画を立て、提出時間も迫る中であとの時間帯の余白には時間の許す限り『臨機応変』と書き殴ったのをふと思い出した。

「臨機応変・・・」
「え、なに急に?」

ぴくりと動いた耳の持ち主はきっとその書類に目を通したのだろう。わたしのうしろに立つ清光の陰に隠れながら必死に口の中を奥歯で噛みしめているようだった。

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