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主は朝が弱い。

必ずや当日中に報告書を提出しなくてはならないという決まりはない。しかし夢の中でも報告書に追われるのはごめんだ・・・と終わらせなければ安眠できぬ性分を訴える主の目にはもうそれ以上口酸っぱく言えそうもなく、結局のところ毎晩遅くまで仕事してから就寝されている現状。
それに加え、まだ慣れない手入れが負荷となっている可能性も大いにある為あまり無理に起こしたくはないのだ。

とはいえ朝餉を抜くことも、中途半端な時間にお食事を摂るのも流石に違うであろうと・・・なのでたいへん心苦しところ、三日月に向かわせた日もあった。が、アイツは全くもってあてにならん!

そこで内番に朝起こす担当を増やすことにした。しばらくは極力気が利きそうな脇差あたりを中心に回し様子見する。

そして継承から5日目の今日、出陣を控えている俺は江雪のもとへ。できれば今日中に、と無理を承知での依頼に少々困ったように笑む江雪。その後ろで俺と同じく織田の刀でもあった宗三が、何がとはあえて言わずに高いですよとだけ言う。
庭先の蜜柑がいくつか食べ頃を迎えるだろう。本丸のものにはとても足りない。お前たちで好きにしてくれ、と告げれば傍らにいた小夜の瞳が僅かに変わる。
去り際、厨も好きに使っていい?という小さな声の問いかけに頷きひとまず対価を払う事ができただろうかと軽く胸を撫で下ろした。



出陣とその戦績報告を終え江雪のもとへ向かえば、部屋には江雪がひとりちゃぶ台の前で書を読んでいた。

「出陣お疲れ様です。頼まれていた物、できていますよ」
「上出来だ。俺はあまり得意でないので助かる」
「いえ私にできるのはこのくらいです」
「早速取り付けさせてもらう」
「調節などありましたらお気軽に」
「ああ、感謝する」

書を閉じやってきた江雪は今朝頼んでいた物をそっと手渡してくれた。時間もあまりない中だというのに大変丁寧な仕上がりである短冊ほどの板。気を利かせ裏側に壁掛け用の金具まで付けてくれている。
それを廊下にある内番表の板の横へ設置し、仲間の名が掘られた木札も全て翌日の内番に返えた。
当然新しく加わった内番にも仲間の札をかける。非番の欄から一振り分減ったが、まあ実質非番のようなものだ。

うちの本丸では元々翌日の内番を夜のうちに把握してもらうようにしているが、今回に限っては見逃してしまうと困るので該当者には今のうちに言いに行くとしよう。


闇に包まれた本丸はまだあちこちで灯りがともっており騒がしい。

今日は久しぶりに風が強くどこも戸を閉めてはいるけれど、それでも一際騒がしい大部屋の障子に手をかけた。

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