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気落ちしていたふたりも元通りだし、ココアも気に入ってくれてよかった。
結局わたしはココアを飲んでいないけれど、今のこのふたりを眺めているだけでなんだかぽかぽかしてきた。

そして思いがけず出てしまった自らのあくびが、 ふたりにも伝染し、大きな大きなあくびをさせてしまった。

「眠たくなった?」
「んー、そうですね」

あくびをしたことにより目尻へ集まった涙に指を当てる鯰尾が答える。
骨喰に関しては先ほどまで床に就いていて、夢見が悪く寝た気はしなかったのだろう。傍らの兄弟より、一層眠そうにして無言で首を縦に振る。

「じゃあ夜のお茶会はお開きでーす」

空になったふたつのマグカップを回収してここのシンクへ向かうと、雛鳥のようについてきた骨喰と鯰尾が手持ち無沙汰なのか背後でそわそわしてる。

「たまにはやらせてね。それよりふたりは歯磨きしなきゃ」
「ええー見逃してください」
「寝る前にした」

万が一虫歯になっても手入れすれば済むんだろうけど、と何とも羨ましく思えるふたり。彼らを見ていたら継承初日に安定がわたしたちのために持ってきた新品2本がそのままにしてあることを思い出した。
洗い物は後回しにし、洗面所へ連れて行きそれを渡す。本丸の洗面所へ行かなくても済む点で渋々歯を磨く気になれたのかすんなりと受け取ってくれた。


使い終えたスポンジの水気を切っていると洗面所からふたりの声が聞こえた。
なんでも例のいちご味を見つけたらしく、おいしいおいしいと言っている。

そういえば清光、こっちで歯磨きしなくなったな。もう共用の歯磨き粉に慣れたのかな。
彼は苦手意識のあるものに対し、あまり積極的に克服しようとするタイプじゃない。
ちょっとでもかわいくなるなら妥協はしないが、何をしてもかわいくないことだとわかれば猫のように躱す。
したがって極一般的なミント味を使うようになったのは清光にとって好都合な要因があったから。きっとお手入れ好きな彼は歯磨き後のすっきり感やよりツルツルな仕上がりになるのが癖になったのだと思う。


「はーおいしかった」
「兄弟、歯磨き粉は食べ物じゃない」
「はは!兄弟だってココアもいちごもおいしかっただろ」
「まあ、嫌いじゃない」
「いちご味の、清光もう使わないみたいだし気に入ったなら向こう持って行っていいよ。さ、眠いうちに横になろう?」
「そういえば主さん。明日・・・いやもう日付変わって今日の朝だけど、俺たちが朝起こしにくる内番だって知ってます?」
「へ?」

歯磨きをして少しばかり目が覚めてしまったような彼らに就寝を催促するが、そのすぐ後に鯰尾が何を言ってるのかわからなくてわたしは目を白黒させる。

「もっかい言って」
「俺と骨喰が主さんを起こしにくる係」
「なにそれ!」
「長谷部さんから聞いたんです。明日からそういう内番ができたんだ、って」

・・・きいてない。いや、そりゃ言わないか。
流石に寝坊し過ぎてしまい長谷部はそんな主に堪りかねたのだ。大変だ、明日朝イチで長谷部に謝ろう。
今後そんな過ちを犯さないと誓い購入した目覚まし時計も見せ、これ以上本丸のみんなに負担をかけないよう新しい内番とやらを撤回してもらわねばならない。

「ってことで、行ったり来たりが面倒なんでソファーで寝たいです!」

頭を抱えひたすら長谷部に謝罪するためのシミュレーション中のわたしになど構いもせず鯰尾が満面の笑みで挙手する。

「止めておけ主、兄弟は寝相が悪い。絶対に転げ落ちる」
「そんなに?でも掛け布団余分にふたつもないし、ソファーって案外寝にくいと思うよ。起こしてくれるのはありがたいけど。というか本当にわたし寝坊し過ぎて笑えない・・・」

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