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第1部隊が報告に来るまでの間もデスクワークを進めておこうと思い執務室へ戻った。
するとソファーには寝巻き姿の宗三と小夜が座っていた。

「お邪魔していますよ。お小夜が貴女に贈りたい物があるそうです」
「小夜が?なーに小夜」
「これ」

ローテーブルを挟み、ふたりと向かい合うようにソファーへ腰掛ける。
よく見たら小夜はストローが挿さったグラスを手にしていて、それをわたしへどうか受け取ってくれというようにおずおずと差し出す。

「お小夜が畑から取ってきた蜜柑を絞った飲み物です」
「すごい!もぎたて、しぼりたて」
「昨日粟田口の方が貴女へ作ったのを見て、自分にもできないかと」

あまりの嬉しさに悶えるわたしは小夜にありがとうとお礼を言うだけでは止まらず、小夜の隣へ移動し就寝前だからかいつもより低めで緩く結われた頭を撫でる。
瞬時にぼっと赤くなる弟の傍らで、兄は憂いを帯びた瞳を優しい眼差しに変え微笑んでいる。
そして早く飲んでみてほしい、そんな気持ちも小夜から伝わってきたので早速ストローに口を付けた。

酸味も甘さも程よく、すっきりとした後味。シンプルでおいしかった。

「おいしい!ありがとう小夜、わたし今夜も頑張れそうだよ」
「そう。でも無理はしないで」
「そうですよ、あまり小夜を心配させないでくださいね」
「ほどほどに頑張らせていただきます。ありがと」

小夜が上目遣いで見せる不安の色を弟想いの宗三は少しも見逃さず、わたしに辛辣な言葉を放つ。
しかし宗三の辛辣ささえも今は嬉しい。まずは関わってくれようとすることが今のわたしにとって何よりの希望だから。





小夜のお手製ジュースを飲みながら仕事をしていると、今朝ぶりに腹を満たした第1部隊のみんなが報告きてくれた。

彼らは政府より感知された大阪城下に潜む敵の討伐へ行っていたのだが、戦績報告開始早々に鯰尾が悲しげに苦笑をもらした。

「いち兄と会いました」
「・・・そう」

わたしはある程度の結末を予測できていた。
だから先日今回と同じ時間軸に遠征部隊を向かわせ、一期一振やその弟たちがあるべき場所にないことを下調べしてもらった。

「いち兄の声も聞こえた」
「骨喰、みんな・・・すまなかった」

辛い思いをさせてごめん、そう頭を下げる一期に毛利らが寄り添い自分ばかりを責めぬよう慰撫する。

「声が聞こえたとき、不思議と辺りが懐かしく思えた。もう幾度となく向かったあの地でも初めてのことだった」
「俺も。ほんの一瞬だけだったけどそう感じたよ」

だから決して辛い思いだけではなかった旨を兄に伝える脇差のふたりは、その後どのように敵と交戦したかをわかりやすく説明してくれた。
いち兄の考えたのは戦略により二手に分かれていたため乱らとも合流し、みんなで歴史としてあるべき場所に戻し一件落着となったそうだ。

「あるじさん、ボクたちはちゃんと正しい歴史を守ったよ。それにボクたちの一期はここにいる。帰る場所もあるじさんのところだからちゃーんと帰ってきたよ」

一期の隣から立ち上がりこちらへやってきた乱は、わたしの座る椅子に両膝を乗せ首にはか細い腕を絡め甘える。

「おかえり乱、帰ってきてありがとう」

戦に出た後でもふわりと鼻を掠めるのはわたしと同じシャンプーの香り。

たまたま昨夜はそのシャンプーにしたのかもしれないし、毎日おそろいなのかもしれない。

だからこの子は今夜何のシャンプーを使うのかな、なんて思った。

どちらにせよ気に入ってくれてるのが嬉しくてたまらなかった。


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