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「待って、清光の手入れしてない」

獅子王に呼ばれたはいいが、昼食前に清光の手入れをしなくてはならなかった。
大事なことをすっかり忘れていて青ざめるわたしは踵を返し庭へ向かおうとする。しかし後ろを三日月が歩いていたので彼の胸元に飛び込んでしまい謝る。

「大丈夫か?でもあいつ庭で見たけど怪我してないぜ。真剣じゃないし」
「え?」

獅子王は清光が無傷だと言う。まあ細かい怪我はしているかもしれないけれど、間違いなく流血はしていないそうだ。
痛い思いをしてひたすら待っているのではなかったならそれはそれでいい。いや、でもてっきり真剣での鍛錬だと思っていたから少し困惑してしまう。
わたしが倒れてしまったのが原因だろうか?それとも長谷部が出陣していて不在だから?
立ち止まってうんうんと考え込むわたしに、獅子王は本人に聞いてみりゃいいと手を引いて歩み出す。

「ほら居た。加州!主がお呼びだぜ」
「ん?なーにー主」

清光は既に昼食を目の前にし座っていた。
やっぱり襷掛けを解いてはいるけれど、普段の穏やかな表情でわたしを見る。

「えっと、お手入れは後でいいの?」
「うん、後でよろしくねー」
「ったくじれったいな!お前ら、なんで真剣使わなかったんだ?」
「なんでって、主に具合悪くなって欲しくないから」
「くるみのせいにしてるつもりじゃないよ。真剣じゃなくても清光に教えることはたくさんある。くるみはさ、今日くらい体力温存しといてよ」

どうやら獅子王は遠慮が苦手なのか、率直にわたしの疑問を代弁した。
その姿に面を食らっていると、清光と安定は至極当然と言わんばかりのすました顔で答えた。

「と、言って聞く耳を持たなかったのでな。まあしかしさぼっていたわけではないことは俺が保証しよう」
「わー、さすが長曽祢さんだ!ってことで、主。この話はおしまいね」
「清光?なんか、ううん何でもない。ごはんだごはん!・・・うん?うどんに、ごはんだ」
「おう!今日は歌仙が遠征で居ないから久しぶりのうどんにごはんなんだぜ!」

獅子王は小首を傾げるわたしに、目の付け所がいいと白い葉を見せる。

「今日のお昼当番は獅子王と誰?」
「石切丸と今剣だけど?何だ、呼んでくるか?」
「え、ううん!大丈夫。そっか、なるほど。チーム関西ね・・・」
「ちいむ?もしや主も歌仙派か・・・?」

いや、鵺と共に怯えた瞳で見てくるけどそもそも歌仙派とは一体何か説明してくれ。脳内でそう突っ込みながら、少し自分でも考えてみたら何となく経緯が想像できた。
歌仙のことだからきっと炭水化物がふたつも取り入れられた献立は雅ではないと言ったのだろう。

「別にわたしは否定派じゃないし、歌仙に配慮しながら作ってくれてるのもいいことだと思う」
「はー!わかってくれる主でよかったぜ!んで、主は冷たいうどんとあったかいうどんどっちにする?!」
「ええ、まさかの選択式?」
「主、俺らは鍛練で汗かいたから冷たいのにしたよー」
「獅子王、俺は温かいうどんがいい」
「三日月は温かいのな!持ってくる」

厨房へ向かう獅子王にわたしも自分が食べたいうどんを告げると、先に座って待っているよう言われた。

獅子王って見かけはやんちゃそうだけどすごく面倒見がいい。少しせっかちな部分はあってもコミュニケーション能力も高いし、わたしもこんな風に振る舞えたらなとしみじみ思った。

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