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朝、目を覚ますとたくさんの短刀がわたしを覗き込んでいた。

まるで白雪姫の物語のワンシーンかのようにベッドを囲うようにみんながいる。

「えっと、おはよう?」

呆気に取られ、ひとまず挨拶をしてみた。
すると肩の荷が下りたような明るい表情をぱっと見せ、各々が思い思いの言葉を口にする。

お早う御座います。起こしてしまい申し訳ありません。お身体は大丈夫ですか?い、痛いところはありませんか?朝食は食べられそう?主君、あるじさま、主、大将・・・。
一度に数人の話を聴く、いわゆる聖徳太子状態だった。
起きたての脳では尚更正確に聴き分けられず、素直に困った顔のまま愛想笑いを浮かべた。

「身体は何ともない。昨日は心配かけてごめんね。朝ごはんは普通に食べられそうだよ」

私服と出陣の服、服装がまちまちな彼らから朝ごはんを持ってきてあげると言われる。先ほど心配は無用だとは告げたばかりだが、ここまで目を輝かせ言われてしまえばノーとは言えず世話になることとした。

一人前の食事を持ってきてくれるまでの間に歯磨きをするなど最低限身なりを整える。
鏡台でスキンケアを済ませている傍らで、ひとりがベッドのふかふかさを初めて知り興奮しだした。
そのひとりとは今剣なのだが、やがて他の子も便乗しわたしのベッドはみんなのトランポリンと化した。

かわいい、朝から元気いっぱいでよろしい。そう感心しひとり頷く一方で、自らは朝全然起きれないなと反省する。

昨夜は結局無理を言いPC業務を引き継ぎ、出陣・遠征・演練の報告書を提出してから床に着いた。
入浴は引き継ぐ前に、念のためシャワーのみで軽く済ませた。

清光と安定はお風呂上がりにもう一度離れにやってきてわたしの様子を覗きにきた。
手入れの件でばたつき忘れていたが、新しいシャンプーに関してとても喜んでいた。
数ある中からどれを選んだのだろうかとふたりに手招きをして毛先に指を通し匂いを嗅ぐと、わたしが普段使っているものと同じだった。
なんだかそれが流石というか、抜け目ないというか愛くるしかった。
そしてスキンケアの片手間で口酸っぱく早く寝ろと言いつつ彼らの自室へ戻って行った。


「大将、お待たせ!」
「持ってきたぜー!」

信濃と厚の声が聞こえ、執務室のソファーへ向かう。

「ありがとう。みんなもこれからごはん?」
「は、はい!でもあるじさま、おひとりになってしまいます」
「確かに。誰かこっちで食べるか?」
「あ、大丈夫だよ?ほんと身体はなんともないし、これ以上みんなに手間かけさせるのも申し訳ない」

彼らだって出陣や内番があり暇じゃない。
じゃあ温かいうちに食べるね、とお礼を言う。
ローテーブルに置かれた朝食に今一度目をやると、ある物に気が付いた。

「ねえ、今日の朝食当番誰?」
「ん?大将の想像してる人だよっ」


去り際の短刀たちに声をかけ尋ねると、微笑みながらそうやって返ってきた。

静かになった執務室にてひとりで食べ始め、だし巻き卵に箸を伸ばす。
ふっくらとした黄色の中には三つ葉が混ぜ込まれていて、口の中に広がる品の良い爽やかな香りが出汁との相性抜群だった。

美味しい。長義、上手に作るね。
でも目の前で食べてあげられず悪いことをしたかもしれない。後で厨房に食器を片しに行くときちゃんとお礼を言おう。

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