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出陣部隊のお手入れが済んだ後、主は意識を失い倒れた。

そのとき俺と安定は、薬研たちが応急処置をする傍らで邪魔にはならぬよう小さな窓から手入れ部屋をこっそりと覗いていた。
思っていたより随分早く重傷者が出てしまったことや、俺のおかげで少しは霊力の無駄な分散が減ったんじゃないかと安定が耳打ちをしてきた。

でも倒れたあとの安定は見たことないほど気が動転していてこっちが驚いちゃった。

どうやらあの人と重なってしまったらしく、主をベッドに運んでからずっと離れない。今もほっぺたに触れたり心音を聴いてみたりして主の生存を確認してばかりだ。

「起きて、起きてよくるみ・・・」
「大丈夫だって。ちょっと寝てるだけってこんのすけ言ってたじゃん」
「なんでもなかったら倒れたりしないじゃないか」
「うーん、まあそうだけど。なら具合悪くて寝てるのに邪魔するのはどうなの?」
「うう、それもそうだ・・・」

渋々主の胸元から退いて、せめて手くらいはいいでしょ?と自分のほっぺたに主の小さな手をくっつける安定。

「清光、午後も真剣で鍛錬?」
「主次第かな。本当に身体なんともない?」
「うん。お互い上手になりたいから・・・やろうか」
「わかった。ありがと主」


なんでもなかったら倒れたりしない、か。
さっき安定は俺のおかげでお手入れが上手になったって言ってたけど、むしろ俺が1日に2回も慣れないお手入れしてもらっちゃったから倒れたのかもしれない。
もっと気を遣ってあげられていたら、主も倒れなかったし安定も悲しませずに済んだのかな?

「清光、ごめん」
「え?」
「今、自分を責めただろ。言い方よくなかった。清光のせいじゃないよ」
「はー、お前にはなんでもお見通しだなー」
「だって僕を誰だと思ってるの?」
「扱いにくーい、大和守安定」

安定はやっと笑ってくれて、それにほっとした俺は色違いの白いまふらーを整えてあげる。

それにしても安定ってこんな精神的に弱かったっけ。
俺がここに来たときも目を腫らしてたし。昔あの人の元でいっしょに過ごしていた頃は、もっと楽観的でよくも悪くも真っ直ぐだった気がするんだけど。
きっと主や俺が1度、いや2度ずつか・・・居なくなったりしたのが影響しているんだろうなって。長生きは長生きで大変なのかもね。





主は1時間くらいしたら目を覚まし、その後ごはんも食べられた。
代わりに報告書を仕上げていてくれたみんなへ、ぺこりぺこりと頭を下げてはもう身体は大丈夫だからと後は自分にやらせてくれとお願いしてた。
けれどみんながそれを了承するはずがなく、ベッドに追いやられてたのを俺と安定は笑って見てた。

今は厨房で安定と3人分のお皿洗いをしてたところ。

安定がこれはあっちそれはここだと教えてくれながら食器棚にお片付けしたよ。
あとは流しのお掃除をするだけで、もこもこと泡立つ真っ白な洗剤を見ていたら五虎退の虎を思い出した。

「あの虎たち、かわいいよねー」
「五虎退の?まあかわいいんだけど、たまに泥だらけのままあちこちするから大変なんだ。いたずらもたまに」
「へー」

あのもふもふに触ってみたいな夢を抱く俺の一方で、安定は苦労した過去もあるらしく眉を下げていた。

「あいつら、ご主人の五虎退以外だと誰にいちばん懐いてるの?」
「うーん、山姥切の布はお気に入りだと思う。あ、でもなにかと大倶利伽羅の足元で見かける」
「それ懐いてるとはちょっと違うような・・・」


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