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「だーもう!俺が悪かったって言ってるだろ?!」
「無理、むり・・・もう無理。ほんと無理」

和泉守の拳で鼻が折れた。
こんなのあまりにださくて主に会えないよ。

「うーん、主さん流石に鼻血くらい見たことありそうですけど、それよりおなかだよね。この抉れ加減は見ても大丈夫かな」

長谷部が主を呼びに行っている間、新選組のみんなは各々勝手に喋りっぱなしだった。

確かに堀川の言う通り脇腹の傷は思った以上に深い。主が怖がってしまう可能性は大いにある。
だけど正直おなかより鼻を見られるのが嫌で仕方ない。

大切な鏡は今出すと汚れてしまうから自分の顔がどうなっているのか確認はできない。でも絶対悲惨なことになっている。ああ、ほんと無理。もうこれしか言えない・・・。

「僕らここに来て50年は経つけど鼻の骨折は清光が初めてだなー。元々柔らかい骨だし、もしかしてずれを直せば元に戻るんじゃない?」
「いやまさか。やめとけって」
「やってみなくちゃわからないって長曽祢さん」
「いやいやそんな馬鹿な話があるか」
「動かないでね清光、そーっとそーっと・・・えい!」

自らの鼻で予行練習した安定の手がおそるおそる伸ばしてきて、俺の鼻に触れた。
ちょんと触れるだけで、もうそれだけで激痛だったのにだよ。安定は蛇口を捻るかのように摘んできた。

言葉にもならない痛みが更に押し寄せる。
まるで全身にびりびりと何かが走るような感覚に陥った。


「大丈夫だから!落ち着けってば!」

何が大丈夫だ!そう怒鳴ってやろうと思った。
でも主が手入れ部屋にやってきてくれて、慌てて顔半分を隠す。
ちょんと触れているだけでも痛いだとかそんなの言っていられない。とにかく主に見られたくない一心でその場を凌ぐんだ。





主には無茶を言って、止まらない鼻血も手で押さえやり過ごした。

そして主が着替えのためいなくなってから、手入れ部屋の汚してしまったところをみんなとお掃除している。

「こりゃ慣れるまで大変だ」

安定は難しい顔をしてため息を付いた。
主のこと、悪く言いたいわけじゃないのはわかる。
でも主だって頑張ってるんだからそんなのわざわざ口にしなくたっていーじゃんと思ってしまったのは、俺もまだここに来て日が浅いからなんだろうか。
安定は物事をはっきりと言う方だし、本人の前でなかったのはマシだけどさ。なーんか気分悪いな。そう考えながら黙々と自分の血で汚した床を雑巾で拭く。

「そうですねー・・・でも見ずにできるってわかったのは大きいです」
「国広、いつまでも甘ったれたこと考えてるんじゃあねえ。清光も。いいか?下手は上手の元、遠慮なければ近憂ありだ!」
「まあ、そうだな。今の主には戦から程遠い存在だ。だが主だって政府の審神者になると決めてここに居る。それに今、俺たちも初心に返るいい機会だと思わないか?また時間は掛かってもいい、共に成長していこう」
「はーい長曽祢さん」

普段は髪型ぐしゃぐしゃになるのが嫌で触って欲しくないけど、長曽祢さんの大きな手でこうして撫でられるのは嫌いじゃないなー。ま、すぐに鏡出して整えたけど!

鏡に映る俺は傷ひとつなく、ちゃんと可愛く元に戻っていた。鼻も触ったって痛くない。
正直、鼻から変な音がしたときは池田屋を連想しちゃった。
暗闇の中、血を吐くあの人の元で散った日。

「ふー、こんなもんかな?」
「手を洗って昼食の準備でも手伝いに行くか」
「今日の当番は小狐丸さんだから手際よくやっていそうですけどね」
「んじゃあ手をゆーっくり洗って待とうぜ」
「兼さんできるの?それならいつもそうして欲しいよ!あとちゃんとタオルを使ってね」
「和泉守、まだその洗い方してたのか・・・腹を壊しても知らんぞ」


そういえば主の服を汚してしまったんだよね。
主のは直らないって知らなかったから。

物である俺たちだって折れたら終わりで、主がいないと直ることもない。けれど人は、主は・・・なおらない。
自分たちと人の違い、なんだかそれを思い知らされているようだ。

さっきは、その主がボロボロな俺を見て夢中でお手入れしてくれた。
目尻から流れる涙を汚れた手で力任せに拭って、歯を食いしばったり、せっかく形のいい唇を噛んでしまったり・・・。
安定たちからすればそれが未熟で胸を痛めるという。
でも俺はさ前の審神者がどんな人だったかわからないけど、これからも俺の主は変わらない気がする。

斬ったり斬られたりする時代を知らないからこそ大したことのない傷をも恐れ、全力で俺たちを想って直してくれる。

本当はボロボロな姿は見せたらまた捨てられるんじゃないかってかなしくなるけど、くるみならそんなことないって思えちゃうくらい誰よりも信じてるから。だから・・・・・・

「俺、主のところ行ってくる」

あーあ、そんな主のこと考えてたら会いたくなっちゃったな!

着替えてるだろ、行かない方がいいんじゃない?と言う安定の声を無視して主の元へと走った。

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